22.「孫子」第十章・地形篇/1

 地形にはさまざまなものがあります。

 開けた場所あり、障碍の多い場所あり、枝道がやたらめったらに別れているものあり、狭いところあり、険しいところあり、遠いところあり――それこそ枚挙に暇がありません。


 開けた場所では、敵よりも有利な場所――たとえば前章で述べた「日向で小高い丘の場所」など――を最初に占領して、補給路を断たれなくした上で整備すれば、非常に戦いやすくなります。


 障碍の多い場所とは、崖道のように、行く時にはどうにかなっても、帰る時に(特に体力や補給が乏しくなっている時に)戻るのが難しい場所などです。

 こういう時は、向こうもやむにやまれずこの土地に展開しなければいけない状態を狙いましょう。すなわち、こちらが兵力に余裕あり、地形効果をのぞめ、さらに補給も準備も(難しくはあるが)充分可能である、可能にした状態で臨むのがベターです。

 仮に向こうがそのような状態であれば、避けた方が良いでしょう。戦っても勝てませんし、退却する時に著しく不利になります。


 枝道の多い場所は、たとえ敵軍が困っているふりをしていても、絶対に出て行ってはいけません。恐らくそれは罠です。伏兵や落とし穴が待っているかも知れません。

 仮にそのような土地をめぐって争わなければいけない時は、まず向こうがこちらを見つけて進軍してくるタイミングを狙うべきです。

 もちろん全軍がそこを出てしまうまで待ってあげる必要はありません。おおよそ、認められる軍の半分ほど――が展開したところで機先を制するのがベターです。そうすれば相手は進軍することもままならず、枝道なので簡単に兵力を分散させられ、各個撃破できます。


 両側が切り立った崖の狭い場所もよくありますが、そのような土地はまず占領して、崖の上に兵士を展開し、敵軍が通るのをじっくり待って下さい。

 もちろん敵軍が先に占領している時は、絶対に通るな、とは言わないまでも、向こうの数が多い場合は進んではいけません。逆に寡兵だな、と思える時は、あえて突き進むのも手です(上から攻撃するにしても、狭い地形が逆にあだとなりますので)。


 険しい場所は、やはり自軍が先にそこを獲れるのであれば、機先を制するべきです。そして敵軍がのこのことやってくるのを待ちましょう。

 仮にそのような場所へ敵軍が先に展開している時は、絶対に近づいてはいけません。たとえ寡兵であっても、彼らは何かをしてきますので、絶対避けて下さい。


 遠く離れた場所は、自軍に充分な――あるいは敵軍に数倍する絶対的多数の――兵力を確保した上で取りかかって下さい。同数であれば、疲労しているこちらの方が不利です。戦ってもろくな戦果を挙げることはできません。


 これらのさまざまな地形に関しては、充分にその性質と有利不利を把握しておくべきです。将軍たるものはこれらについて基本的なことは最初に覚えておきましょう。それが彼らの義務であり、責務というものです。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る