21.「孫子」第九章・行軍篇/3

 そもそも、兵士は多ければ多いほど良い、というものではありません。

 選択と集中を行い、猛進せず、相手の弱点へ向かって戦力を集中させるのが肝要です。

 その辺を理解せずに、ただただ数を恃んで猪突しようとすれば、有能な人物や将軍自身すら捕虜になる可能性が大です。そういうことを禦ぐために、できるだけ軍を錬り、策や合図を徹底して、ひたすら(将軍である自分自身は)頭脳を働かせるようにして下さい。考えなしは、単なる向こうの「餌」になるだけです。


 あと大切なのは、ひたすら兵士の心を攫む方に努力すること。

 まずは兵士が自分のために、国のために戦うように鼓舞したり、あるいは戦うに充分な理由を与えてあげて下さい。

 それが不充分なうちから懲罰を強くすると、せっかく培った人心があっという間に離れてしまいます。かといって、ルール違反を起こしたのに懲罰をしなければ、うちの将軍には威厳がなくて甘々だ、と侮られてしまいます。

 人はムチとアメ、報償と懲罰で動きます。

 それを厳格化して傍目にも分かりやすくすれば、ルール違反も離心もせぬ強い軍に育っていくことでしょう。


 この、賞罰ルールの厳格化、というのが重要です。

 たとえ将軍に近い側近であっても末端の兵士であっても、決まりに従って充分に賞罰すれば、我が上将は誰も公平に扱ってえこひいきはしない人物だ、と信用してくれます。

 一方で側近には甘く、そうでない者や末端には厳しくするばかり、であると、誰も公平に扱う人物とは見なさず、信用をみるみるうちに失っていきます。

 とにかく誠実たれ、公平たれ。

 そして(この書の冒頭で述べたように)大義名分、戦う理由をはっきりさせよ。

 兵士たちに戦う充分な理由と、それに見合うだけの栄誉や結果を与えよ。

 そうすることで、前線も銃後も等しく国のために戦い、そして支持してくれるのです。


 人心が一つになっている国や軍は強い、というのは世を貫く大原則です。

 そのことを忘れずに、常に「戦う理由の明示化」と「それを可能にするためのルールの徹底」には、ひたすら心を砕いていてください。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る