20.「孫子」第九章・行軍篇/2
人の動きも重要です。
まず、防備を固め、使者を送ってその態度が叮嚀すぎるのは、実は進撃を目論んでいる状況です。
逆に、武器をがっちゃんがっちゃんとうるさく動かしていかにもこれから進撃するぞ、と見せかける態度は、実は退却を行おうとしているのです(その時に攻められたらひとたまりもありませんから、あえて武器を露骨に動かして動揺を誘い、その間に準備を整えているのです)。
相手が特に困った様子もないのに講和を申し込んでくる時は、何らかの奇策、あるいは罠が待っていると見ていいでしょう。どちらにしても信ずるに値しません。
戦車を横にずらりと並べているのは、その後ろで陣立てをして、迂闊に攻められないようにしている状況です。
敵軍の様子が慌ただしくなったら、総攻撃を仕掛ける合図です。
こちらが何もしていないのに相手が軍を分けてうろうろとこちらを窺っているのは、誘いをかけているのです。
相手の兵士に杖をついた者が増えたら、それは相手に補給がなく、体力が衰耗し、マトモに立っていられない状態と見ていいでしょう。
水場にやってきて我も我もと先に飲もうとしている時は、彼らの軍に水の補給がなく、喉が渇いている状態です。
明らかに向こうが有利な状況なのに、調べても罠がなく、しかしてこちらを攻撃なり牽制なりする様子が見かけられないのは、疲労困憊でもはや動けない状態です。
陣地をしっかりと張っているのに、その上を鳥が無警戒に飛んでいたり、時折陣地に舞い降りたりするのは、人がいない証拠(空陣)です。
相手の陣地から夜に夜に叫び声がするのは、全体的に恐怖に駆られている状況です。
相手の軍が慌ただしく安定しないのは、将軍が人心を掌握してなくて、コントロール権を失っている形です。
旗がばたばたとあちこらこちらに揺れているのは、向こうの陣営に何かがあったのです。何かというのははっきり言えませんが、とにかくじっとしていられる状況でないのは確かです。
それほど補給が行き届いているようにも見えないのに、大量の兵糧米を食べ始めたり、(輸送用の)牛馬を割いてその肉を食わせたり、鍋窯のたぐいは全部打ち壊していたり、陣幕に帰らぬままそこに居座っていたりするのは、退路を断っている状況です。恐らく「ここで勝たねばもはや我ら帰らず」の精神で、死にもの狂いで戦うでしょう。そういった軍には充分な警戒が必要です。
向こうの指揮官がなだめるように、すかすように、ペコペコと頭を下げながら会話をしているのは、兵士が完全に(敵国への)忠誠心を失っている証拠です。あるいは最初からそのようなものはなかったのかも知れません。
名誉や報償の乱発は、向こうの士気が著しく落ちている形です。
最初は居丈高に呶鳴っているのに、同じ相手に対して急にしおらしくなってくるのは、単なる考えなしの莫迦です。相手がやる気を失ったり、下手すると叛乱すら起こす可能性にすら思考が至ったりしていません。
いずれにせよ、陣営の動きである程度向こうの困窮度やヤケクソっぷりを把握することは、可能です。
いきなり贈り物を屆けて講和を申し込むのは、自軍の鋭気を養うために時間稼ぎをしているのです。
向こうが雄々しく進軍して、しかしてこちらに一向に攻めてくる様子がなく、また撤退するつもりもないようなものは、はっきりしたことは言えませんが、とにかく何らかの「策」を彼らが弄しているのは確かです。警戒を高めるに越したことはありません。
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