23.「孫子」第十章・地形篇/2
軍が崩れる状態というのがあります。
兵士が逃亡するケース、綱紀粛正や軍制が弱くて命令や懲罰が行き届かないケース、士気が落ちるケース、軍隊が整然と組まれず、将軍も幹部も現場の下士官や兵士の能力を把握しておらず、てんでばらばらに散じて戦おうとするケース、将軍が最初からオロオロしていて威厳がなく、命令も徹底されず懲罰も全然整備されていないケース、将軍が「戦いの基本」――常に多勢で無勢に当たれ――を全然理解しておらず、逐次少人数を送り込んでは全滅させて、しかしそのたびにまた同じようなことを繰り返すようなケース、などです。
これらは条件がどうのこうの、タイミングがどうのこうの、といったものではなく、ひとえに「人の質、軍の質」によるものです。
まず兵士が逃亡するケース。これはこちらへ有利なものが全くないのに一人十殺を行え、という無茶を強いるパターンによくあります。
そんなものはそうそうできない上に、できないことをできると言わされ、やれないことをやれると言わされるのですから、著しく士気も敵愾心も落ちます。そうすると兵士は正面の敵と戦わずに次々と戦場を勝手に離脱していこうとします。
綱紀粛正やルールの徹底が弱いケース。これは懲罰を担当する役人が甘い、もしくはルールの適用が厳格でない場合によくあるパターンです。上に立つ者は威厳と厳格さをもって現場に当たるべきです。
逆に、上がやたら無茶を言って、末端がそれに文句を言えないケース。これは士気が甚だ上がらないパターンです。
「将軍といえどもルールの適用に例外はない」というのが軍の基本ですし、無茶を言う上長は現場のやる気を削ぎます。できるだけ両方のバランスを取らせて、上は無茶を言わない、下は上の言うことをよく聞くといった状態を保って下さい。
陣形が揃わない、あるいは揃えるすべを知らないケース。これは無勢をもって多勢に当たる形を常に作り出すことになります。
まずは敵愾心を剥き出しにして手前勝手に突っ走ることを戒めて下さい。軍隊は整然と動いてこそあれ、蛮勇やら匹夫の勇やらで何とかなるケースはほとんどない、ということを現場に周知させて、将軍も「陣立ての基本」をわきまえて、自分の指示通り、命令通り、ルール通り、原則通りに動く軍を組織して下さい。
そのためにはまず「現場の能力を知ること」、そして適材適所です。
現場のマネジメントは精強な軍を作るのにとても大事だということを理解して下さい。
将軍がオロオロしていて現場に強いことが言えないケース。これは現場の声が大きい時にありがちです。
その場合は、まず現場にルールと陣立ての基本、どのように命令に従ってどのように現場判断をすべきかを叩き込むこと、そしてルール違反した時にはどのような懲罰が降るか、その例外は上も下も、もちろん自らもなし、というように、「現場は徹底して上の言うことを聞くべし」という状態を整備しておく必要があります。
将軍が「戦いの基本」を知らないケース。これは最悪です。
負けます。絶対に負けます。おめおめと逃亡する破目になります。断言してもいいでしょう。
まずは彼らに「戦いの基本」を叩き込んで、理解しない輩は将軍の地位から外すべきです。無勢で多勢に当たるのはよほど追いつめられた時でないと勝てません。精兵を揃えて何とか突破できるか、というのをわずかに望むことができるか、といった結果だけが待ちます。
まずは「戦いの基本をわきまえた将軍」を派遣するか、これから派遣する新しい将軍にそれを骨の髄まで叩き込んで下さい。
このように、逃げて、侮って、無茶をさせて、ルールを知らなくて、威厳がなくて、基本を知らない。これらはいずれを抜き出しても「負ける軍の作り方」と言えるものです。負ける軍が勝つ筈はないのですから、勝ちたいのであれば「勝てる軍」を組織し、ルールなり基本なりを上も下へも叩き込むようにして下さい。
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