10.「孫子」第五章・兵勢篇/1

 孫子は「大人数でも少人数を操るようにやること」こそが大切と説いています。

 千、万という兵士を集めても、一人ではどうにもうまくいきません。一人で把握できる人数には限りがあるからです。

 そこで必要になってくるのが、部隊の編成です。

 そしてその部隊をコントロールする「通信」や「見た目(戦旗など)」の整備です。

 たとえ将軍がどのように動くかを(下士官が)把握していなくても、この音この指図に従っていれば間違いない――とすることです。


 その上で部隊の動きを把握し、有機的に、弾力的に動かす、

 そして「正」と「奇」のあり方、正道と卑怯、定石と搦め手が戦場にどう作用するかを常に意識する。

 そして「正しい情報」と「間違った情報」を相手が把握できないうちに虚実ないまぜにしたまま、でかい方を小さい方に常にぶつけるような戦い方を心がければ、相手を破るのにさほど苦労はいりません。

 大切なのは相手の隙を呼び込み、そこを突くこと。戦いはひとえにその辺りの「主導権争い」こそが勝負を分けます。


 大切なのは「勝てる正しい方法(正法)」と「相手の変化に適応した弾力的判断(奇法)」を有機的に組み合わせること。勝てる正しい方法が必ず勝てるかと言えばそういうわけではなく、一方で相手の変化に合わせているだけでは、勝ちを得ることは難しい。

 双方をうまく組み合わせて、少しでも自分たちは有利な態勢を整え、相手に不利な条件を押しつけ続ける、その状態を常に保つのが、最終的な勝利を得るコツと言えます。


 孫子は、状況に応じた千変万化、あるいは「奇」と「正」の組み合わせの妙を、戦場では大切にすべしと説きます。太陽や月の動きに窮みがないように、大河の流れに尽きるというのがないように、まるで四季のめぐりや昼と夜の組み合わせの如く、変化し続けることが重要なのです。


 たとえばメロディライン。基本は一オクターブに基本ドレミファソラシ、プラス半音の決まった音しかありませんが、それを組み合わせたものは非常にバラエティ豊かです。

 たとえば色彩。基本は赤橙黄緑青藍紫の七色、あるいはRGB、あるいはCMYKの組み合わせに過ぎませんが、そこから組み合わされる彩りは無限大のバリエーションも持ちます。

 たとえば味覚。基本は甘味・辛味・苦味・酸味・鹹味(かんみ=しおからみ)の五種類に過ぎませんが、同じ味は同じプロセスを経ないと二度とできないと言われるほど、作る人によって大きく変わります。

 しかも、これらの味は出す順序、あるいは温度、あるいは組み合わせで、その後味も決まるように、その妙はとても味わい尽くせるものではありません。


 正法と奇法も同じものです。どう組み合わせるか、どう入れ替えて相手を攪乱、もしくは弱点を突けるかをひたすら考えれば、今度は「正法の中の奇法」「奇法の中の正法」をも考え出すことが可能になるでしょう。

 そうなればしめたもの。相手はこちらの考えが読めずに、ただただ翻弄されていくだけになりましょう。何せ正と奇がいつ、どこから、どうやってやってくるのが分からない(それを知悉しているのは将軍本人のみ)なのですから。

 それはまさに月日の動き、四季の巡り、大河の流れにたとえても全く遜色のない、「窮みの、よどみのない動き」そのものであると言えます。

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