9.「孫子」第四章・軍形篇/2

 戦争上手は人心掌握が得意です。うまくお互いの心を一つにさせて、連携した戦いを可能にさせます。しかして、軍制の徹底、ルールの逸脱に関する罰則は常に公平。だから兵士もそのような人物を信用して彼のために戦おうと頑張ります。

 こういう人は、勝敗をコントロールするのが非常に巧みです。


 兵法――戦争のキホンでは、「度(たく)」「量」「数」「称」「勝」の五つを把握することが大切だと言います。


 度(たく)は、測量です。戦地をどのような広さと見て、そこにどれだけの物量を投入できるか、を把握します。広いところにはたくさんの兵士を、狭いところにはうまく動けるレベルの戦力を投入しなければならないからです。

 戦地の広さにだいたいの目処がつけば、今度は戦力の投入量をはかります。これが「量」です。密集しすぎても散開しすぎても、うまくは行きません。


 「数」は実際に動く兵士の数です。ちょうど良い兵士数を投入します。これは度(たく)――土地の広さ――や量――投入する物量――によって変わります。


 そして「称」とは、「対称」という言葉にあるように、比較のことです。勝てる数を用意して勝てる状況を摸索して、その上でできるだけ損耗の少ない方法を模索します。

 その上で「勝」――すなわち勝利の趨勢が決まります。


 戦場の広さから物量を計算し、補給・兵站を含めた物量から動員できる兵士を計算し、兵士の数から戦場での出方を計算し、戦場での出方で最後の勝利を決める。これはそう簡単なことではありません。だからこそできる人物は「戦争上手」と言えるのです。余人にはそうそうないスキルの持ち主だからです。


 それはまさにバランスの取り方。

 それは秤に重いおもりと軽いおもりを載せるようなもの。重い方に傾き、軽い方は持ち上げられる。それと同じです。諸条件を検討して適切な物量や計算のできた方が勝てます。その意味でしっかり計算している「重い方」は勝利が濃厚ですし、うっかりしている「軽い方」は敗北します。

 それは見た目よりも単純な、しかして余人には難しい「比較」の結果なのです。


 しばしば戦いは水の流れにたとえられます。

 堰を切って深い谷に落とせば、どう禦ごうとも水は勝手に谷底へ向かって落ちていきます。それと同じように、戦いの勝利条件を整えればおのずから勝ちは訪れる。それが戦いの原則です。


 できるだけ損耗を禦ぐ形を整え、広さから、物量から、勝利条件を把握して、それに沿うようなやり方を考える。これこそが「軍形」のあるべき姿です。その軍形を作れることこそが勝利をしやすくし、敗北しにくくなります。

 これらはどう整えるかの「比較」の問題なので、有能同士の戦いでも、よりすぐれた準備をする方が勝てます。「ここまでやれば勝てる」と一概に言えるものでは、ありません。

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