5.「孫子」第二章・作戦篇/2
ところで『戦争上手』と言える人はどんな人物だと言えるのでしょうか。
まず、兵士の徴発は一度で済まし、二度以上は行わない。
一方で補給は一度にとどめる。
軍需品は流石に自国の使いやすいものを使用しますが、糧食などは遠征先で手に入れるのが上策です(※2500年前の思想です)。
遠征先で食糧を手に入れる――厄介な部分ではありますが、実はこれが大事なのです。
そもそも、輸送にはコストがかかります。そのコストは国民をビンボにさせるのに充分なレベルのそれです。
そして補給が膨大になればなるほど、ものの値段は上がります。値段が上がれば、困るのは民衆の貯蓄はあっという間に消えていきます。
貯蓄がなくなれば次に行われるであろうというのが『軍役』です。軍のために、お国のために、王のために、あれやこれやを差し出しませう、ということになります。お金やモノで済んでいるうちはいいのですが、これが若者やら女性やらいうことになれば――。
その結果は惨澹たるものです。
戦場では疲弊した兵士、乏しい武器、減らされた補給、などなど、あからさまに戦力ダウンという形で現れます。
もちろん、戦場ではない、母国の状態も大変に厳しいものになるでしょう。
村々は荒れ果て、家々は修理もままならない状態が続き、贅沢は敵だ、みたいな思想が蔓延する。そうなった時、孫子は良くて(万全な状態の)30%のレベルを維持できるか、と述べています。つまり、70%は戦争のために、お国のために、そして――戦略的にマズイと言い続けてきた長期戦のために――いたずらに費消することになる。これで国がやっていけるでしょうか。
もちろん兵士や国民だけでなく、公費や兵器・武器などの逼迫という状態で、戦争を決めた君主・文官にもそれは及びます。偉い人でもボロ車で移動しなければならず、現場になお良いものを補給しようにも、牛馬も武器もろくなものを与えることができない。せいぜい出発時の40%を保つのがやっとというレベルでありましょう。
長期戦とは、そこまで国を傾かせるのです。
ですから、(短期決戦で終わらせるつもりでも)仮に長期戦になったならば、まずは相手の補給線を断って、そこからさまざまな物資を得ることが肝要になります。つまり相手の『メシ』を奪うのですね。
『メシ』を奪えば、こっちは補給ができる、相手は補給が断たれる、一挙両得です。
そのレシオは、自分たちだけで何とかする場合の20倍の効果があると言って過言ではないでしょう。それほどまでに「補給をしなくて良い、相手の補給を断つ(奪う)」というのは、長期戦において非常に大切な要素なのです。
敵を殺すのは敵愾心ですが、補給を奪うのはひとえに国家や軍隊に利をもたらすためであると、孫子は断言しています。
ですから、補給線を断つための功績を挙げた者には、充分な報償を与えましょう。
さらに、その戦果が著しく高い者には、比例する報償に加え、特別に名誉を与えるべきです。
奪った補給や捕虜たちは味方のものとして、旗印をつけかえて、捕虜に関しては自国に裏切ると決めた者たちは特に優遇してやる必要があるでしょう(同じ地域に敵味方が入り交じる内戦状態の、戦国時代の発想ではありますが)。
こうすれば、軍は明らかに強くなります。
「敵に勝った上に強くなる」とは、こういうことです。ただただいたずらに相手も自分も消耗させる将軍が偉いのではありません。相手の戦力を奪い、自分の戦力を増強する。それが「強い軍隊を作る」コツなのです。
戦争で大事なのは何でしょう。
まずは勝利。何があっても、他を差し置いても、勝つことが大事です。
「負けて華を得る」「美しく散る」みたいな余計な価値観はさっさと棄てて、どうやったら勝てるか、みたいな発想にのみ專心しましょう。
そして「長期戦に陥らないこと」。久しきは貴ばず、などと言いますが、長期戦はできることなら絶対避けること。これだけは口を酸っぱくして、何度でも述べたいと思います。
「短期決戦で勝利して後顧に憂いを残さない」
こういうことの大事さを知っている将帥は、国の運命を握るといっても過言ではありません。そして、国の安危を左右する力をも持ちます。
こういう価値観は、大事です。
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