6.「孫子」第三章・謀攻篇/1

 孫子は「戦わずして勝つ」ことの重要さを説いています。


 戦争とは言いますが、一番いいのは、やはり平和を保ったまま「戦いに勝つ」ことです。そのために外交や謀略などの存在は欠かせません。

 次に良いのは(短期決戦で)相手の軍を殲滅してしまうことです。

 これに次ぐのが、局所戦での勝利です。

 目の前の敵に勝った、というのはその次、といったように、小さな勝利を重ねても、最終的な勝利といった『目的の達成』にはあまり貢献しません。そういうのが大事なのは分かってはいるのですが、孫子の理想は「戦う前に勝つ」というのが神髓です。

 精強な兵士を揃えて連戦連勝、百戦百勝、というのは、見た目派手なので誤認されやすいですが、孫子的にはあまり重要ではない、と彼は言います。彼の理想はやはり「戦う前に勝つ」、そして「戦争の最終目的を達成する」ことなのです。


◇◇◇


 「戦争」に対する最良たるものは、相手の陰謀、侵略の意図を、意図のうちに摘まんで片付けて達成させないことです。他の国家と連合軍を組んで圧殺する、みたいなのは次善の策であると言えましょう。

 戦端を開くのは、たとえ自国側が明らかに強いと分かっていても、やはり見劣りはします。お互いに準備が済んだ上の正面衝突など愚策と言ってもいいものです。

 そして一番「アカン」と言えてしまうものは――相手の目論見に載せられて、あるいは挑発させられてこっちから遠征してしまうこと、でしょう。


 遠征はさきに述べた通り、国力を著しく衰耗させます。

 ですから、よほどの理由がない限りは、遠征は絶対に避けましょう。


 遠征先の城を落とすのは、大変な準備が必要です。

 兵器を揃え、攻撃態勢を整えるのには、思った以上に長い時間がかかります。

 有利な陣地を築くのにも、同じくらいかかるでしょう。

 それを待たずして、じれて総攻撃をかければ、全兵士の3分の1をいたずらに死なせて、なお城は落ちず、みたいな最悪の結果になります。そうなれば最悪です。


 ですから、戦争上手と言える人は、遠征するとしても、基本的に「戦闘」は行いません。内から外から搦め手を使って、いつの間にか敵が裏切ってた、城が落ちてた、相手の国家が滅んだ――みたいな方法を模索します。

 つまり、敵味方、どちらにも損害を与えることなく、十全の状態を保ったまま「戦争」に勝つのですね。しかも長期戦ではないという。これほどの「勝利」と言えるものが他にどのようにあると言えましょう。

 しかも軍隊の精強さは保ったまま。矢一つの消耗も人ひとりの喪失もなしに、結果的に戦争に勝てるのです。

 ですから、そうした「搦め手」を行える態勢を整えるのは大事です。

 もしかすると、武器を用意し兵士を強くするよりも優先度が高いと言えるかも知れません。


 ところで、実際に戦場に出たならば、どのような行動が適していると言えるでしょうか。

 基本的に、


「10倍であれば囲め」

「5倍であれば四方八方から攻めろ」

「2倍程度の戦力なら相手をより分裂させろ」

「ほぼ同数の勢力ならば、とりあえず戦って消耗は避けろ」

「相手より少ないならひたすら逃げて攪乱させろ」

「どう考えても勝てない戦力差なら、相手に見つからないようにこそこそと隠れろ」


というのが常道です。

 戦力差が(向こうの方が)大きいのに、強気になって出て戦う、というのは、相手の大軍の「おいしい餌」になるだけです。相手を舐めて慢心、あるいは自信過剰になって戦うのは、できるだけ避けた方が無難であると言えます。

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