俺はそのままトニーの言う「ババア」の世話になることにした。


 当初は死ぬつもりだった俺がここで生活しようと決めたのは、ババアの作る猫まんまが美味かった、っていうのは置いておいて、正直なところ自分ではよく分からなかった。


 ただトニーも俺がここで暮らすのを喜んでいる様子だった。ちょっと癪だがトニーから家ネコの暮らしについてレクチャーを受けた。


 その見返りにと、トニーは俺のこれまでの野良としての経歴を執拗に聞いてきた。当初は上手くはぐらかしていたのだが、毎夜毎夜聞いてくるので、根負けした俺は仕方なく話してやった。


 トニーは興奮しながら俺の話を聞いていた。それでトニーは、野良の血が騒いだのか、むやみにネズミをいじめていた。


 家ネコの暮らしは食うに困る事がないので捕らえたネズミを食べはしない。だからトニーはネズミの死体を使ってババアを驚かせようと、ババアが寝込みの枕元にネズミの死体をこっそりと置いて、したり顔をしていた。


 だが何故かババアはそれを喜んでいた。ババアはそれをトニーのネコの恩返しだと勘違いしていたのだろう。


 しばらくすると俺の傷も良くなってきた。

 ただ失った尻尾は戻りはしない。


 そんなある日のこと、俺は夜空に浮かぶあの真ん丸の光の玉はいったい何なのか? と考えているところに、トニーが割って入ってきた。


「なあ、ブルーノ」

「なんだ?」

「いつマーティンの野郎を殺りにいくんだ?」

「……マーティンか、さあ、どうするか」

「また噂を聞いたよ、マーティンの野郎はアンタの縄張りを抑えたらしいぜ」

「そうか、まあ、そうだろうな」

「そうだろうなって、……ブルーノ、なんだかアンタ変だよ」

「そうか?」

「ああ、変だよ」

「まあ、そうかもな、ちょっと家ネコの生活にも慣れてきたし」

「ブルーノ……、その、アンタひょっとしてさ」

「なんだよ?」

「このまま家ネコになろうって考えていないか?」

「……そんなわけないだろう」

「だ、だよな。あの発情ネコも黙る ”噛み付き”ブルーノ様がそんなわけないよな! へへ、ごめんよブルーノ、変な事を聞いてしまった」


 そう言ってトニーはババアの家に戻っていった。


 そして、翌朝になるとトニーは姿を消していた。またすぐに戻ってくると踏んでいたが、それ以降トニーが戻ってくることはなかった。



 ──まめちゃん! どこへ行ったの!? まめちゃん!! 戻って来て、まめちゃーん!!



 ババアは子ネコのように鳴いていた。




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