第11話 エピローグ

 涼太が亡くなってから二度目の夏が来た。

 私は結局就職はせずに、大学院に進むことを選んだ。

 私の名誉のために言っておくと、決して就職先が見つからなかったからではない。涼太と通ったこの大学で、もう少し勉強をさせてもらおうと思ったからだ。

 私は今、大学4年の時からのテーマである、ソーラーパネルのとリチウムイオン電池を使用した電力安定供給モデルに関して引き続き研究している。最近、ある企業が私の研究に興味を持ってくれたため、製品化する上での課題の洗い出しに大忙しだ。

 まだまだ道は険しいけど、これからは各家庭で環境問題に取り組む時代になってくるはず。太陽光だけでなく、波力・風力・地熱等のエネルギー利用も念頭に置けば、火力・原子力に負けないエネルギー供給ができるはず。

 そういえば、今日は久しぶりに涼太の夢を見た。夢の内容は覚えていないけど、優しい夢だったのは覚えている。まあ、涼太はいつでも優しかったけどね。

「唯、ここにいたんだ。」

 梓が話しかけてきた。何と彼女も大学院に進学していた。

 何でも、これからはインフレに傾くから、消費が落ち込んでアパレルじゃ将来が厳しくなるって誰かに聞いたらしい。その話がホントかどうかは分からないけど、梓がいるおかげで、私も随分と心強いから結果オーライかな。

 拓巳はさっさと卒業して、どこかの商社の営業をやっているらしい。

 営業って所が拓巳らしいといえば拓巳らしい。卒業してから一回も会っていないけど、きっと今日も忙しそうに飛び回っていることだろう。

「今日も暑いね。」

 梓が白衣の襟をパタパタしながら近づいてきた。

 私は太陽を見上げた。

 まだ午前中だというのに、白く輝く太陽からは刺すような日差しが降り注いでいる。

「よく充電はできそうだけど、外で作業しなきゃならない私たちにとっちゃ地獄だね。」

 私も梓の意見と同意見だ。

「そういえばさ、大学の自然林に野良猫が住みついたって知ってる?」

 全くの初耳だ。

「そうなんだ。全然知らなかった。」

「じゃあさ、これから見に行こうよ。」

 梓は強引に私の手を引っ張ると、理学部棟の方に移動した。

 自然林とは、理学部の研究のために作られた雑木林の事。学生広場の先から、大学裏の丘の手前までの広大な土地に作られている。何でも昆虫の研究に不可欠なんだとか・・・。昆虫の研究・・・考えただけで寒気がする。

「唯、ほらあそこに一匹いる。」

 梓が指さした先には、大きな茶色いトラ猫がいた。

「一匹だけなのかな?」

「う~ん、聞いた話だと、何匹かいたらしいけど。」

 茶色いトラ猫はこちらを一瞥したが、逃げる様子は無く寝そべっている。

「ほら、もう一匹。」

 林の奥から、若い黒猫が姿を現した。

「唯、まだいる。あっち、右のほうに二匹。夫婦かなぁ、仲良さそうだよ。」

 梓が指差した方に目を向けると、寄り添っている猫が二匹いた。一匹はすごくスマートで綺麗な黒いトラ猫。もう一匹は・・・。

「おだんごちゃん?!」

 私は自分の目を疑った。

 黒いトラ猫に寄り添っていたのは、紛れもなく私の飼い猫のおだんごちゃんだった。

「しまった、忘れてた。」

 私は、野良猫の群れの方に早足で移動すると、おだんごちゃんの両方の前足の下に手を入れてを拾い上げた。

「まさか、赤ちゃん作っちゃった?」

 もちろん、おだんごちゃんからの返答はない。

「去勢しなきゃダメか。」

 おだんごちゃんが少し青い顔をした気がした。

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