擬態、異常

「ヒメちゃん、ボクはガッカリしているんだよ」


昼休み、例の空き教室へ着いて早々、麗は不機嫌を隠さずにそう言ってきた。

隅の方で積まれていた椅子を持ってきて座ると、激しい貧乏揺すりを始める。


「ガッカリって、なんだよ」


「ボク達が仲睦まじく登校してて、しかもとても大切な話をしていたのに、それを遮って話し掛けてくるような、非常に無神経な友人を持っている事に、だよ」


ダンッ!と、大きな音を立てて床を強く踏み締める。

その、二人を馬鹿にするような物言いも、いちいち咎めていてはキリがないと思い、あえてスルーした。


「俺がどういう人付き合いをしようが勝手だろ?次同じ場面で見掛けたら、今度は無視して貰うように言っておく。それでいいか?」


「ボクは!!今日、邪魔をされた事が我慢ならないんだよ!!」


らしくなく声を荒らげる麗に、思わず面食らう。

コイツのこういう所は、それなりの付き合いの中でも見た事がなかった。


「お、おい、麗・・・・・・?どうした・・・・・・?」


整った顔を歪めて、こちらを睨むその姿は、女子達に人気の王子様には見えない。

どうするのが正解か分からず、ただ立ち尽くしていると。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんてね、驚いたかな?」


「・・・・・・は?」


さっきまでの激しい感情など一切感じさせず、いつもの落ち着いた雰囲気に戻る。

その、機械のスイッチを切り替えたような変わりようは、驚くというよりも恐ろしかった。


「ボクだって激しく怒る事があるって理解してもらえたかな?表に出す事は滅多にないんだけどね。ヒメちゃんには緊張感が欠けている気がしたから、こうやって見せておかないといけないかなって思ったんだよ」


「ちょ、ちょっと待ってくれ・・・・・・!」


「ん?」


「お前は何をいってるんだよ?さっきのは、俺をビビらすための演技、なんだろ・・・・・・?」


緊張感のない俺に、何がきっかけでコイツを怒らせるか分からないぞ、と分からせるための。

本当はなにも感じない些細な事を、大袈裟に騒ぎ立てただけの、迫真の演技、のはずだ。


「演技?ふふ・・・・・・、面白い事言うね?ボクは演技なんて器用な事出来ないよ。ただ、さっきみたいに態度で示したところで、メリットは少ないからね」


だから隠しているんだ、などと当たり前のように言い放つ。

薄く微笑みながら。


「隠すってなんだ・・・・・・?意味わかんねーよ・・・・・・。だって、普通に笑ったり泣いたりもしてただろ・・・・・・?」


子供の頃、遊んでいて楽しいと笑った顔を覚えている。

転んで痛いと、泣いている写真がアルバムにある。


「それは、"そう"した方が自然だったからやってただけだよ」


「しぜ、ん・・・・・・?」


「そう。痛いのに泣こうともしない子供は不自然だろう?楽しいのに笑わない子も不自然だ。怒るのは・・・・・・まぁ、特に必要な場面はなかったかなぁ」


普通ではないと思ってはいたが、ここまで異常な人間だとまでは想定していなかった。

無意識に身体が後ずさる。


「・・・・・・そう、それで良いんだ。"ボクも怒る"って事を忘れないようにしてね?ボクはただ、二人の時間を大切にして欲しいだけなんだよ」


穏やかに、優しげに、愛おしそうに笑う麗。

大切な宝物を扱うように、ゆっくりとスマホを取り出す。

その中には、あの写真と田無の連絡先が入っているのだ。

分かっているよね?と、その動きだけで伝えられた気がする。


「それじゃ、改めてよろしくね」


俺は、俺が思っているよりもずっと、ヤバい状況に在るんじゃないか?

そう思わずには居られなかった。

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王子様♀が俺を離してくれないお話 たかなにし @takananishi

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