納得、決意


三人で雑談を交わしつつ歩いていると、視界の端に見慣れた顔を見つけた。


「あ、みゆちゃんだ」


白河も同じタイミングで見つけたらしく、テニスコートの横でせっせと何かの作業をする田無に、大きく手を振る。

ちょうど、作業を終えたのか顔を上げ、こちらに気付き手を振り返してくる。


「ぶかつ〜!がんばってね〜!」


「・・・・・・ばか!やめろ恥ずかしい!」


思わず周りが振り向くほどの大声で、田無に声援を送る白河。

吉崎の言う通りかなり恥ずかしいし、送られた本人なんか真っ赤になって縮こまってしまっている。


「・・・・・・!」


なんとなく、その姿を見つめていると、不意に目が合ってしまった。

どうするか、と一瞬迷ったが、小さく手を振ってみたところ、向こうも同じくらい小さく振り返してくれた。


「・・・・・・意外と大丈夫そう、みたいだな」


「うん、安心したよ」


その様子を見られたのか、さっきまでギャーギャー騒いでいた二人が、安心したような声でそんな事を言う。

そういえば、思ったよりも気まずさは感じなかった。


「フラれた側がウジウジしてる訳にはいかねーよ。あからさまに落ち込んでたら、向こうも気にすんだろ」


「ほぉ、ゆうきくんオトナですなぁ!」


白河が感心したように言うが、これは半分は本当で半分は嘘だ。

田無に余計な気を遣わせたくない、という気持ちも確かにあるが、再び俺の前に現れた時任麗という存在に、落ち込む暇すら奪われていた。


「・・・・・・ま、姫川が納得してんなら、俺はなんも言わねーよ」


「そだねー!それに今がダメでも、未来はどうなるか分かんないって、ね?」


「そういうもんか?」


「そういうモンそういうモン!」


「・・・・・・なら失望されない程度に、ちっとは気合い入れるか」


少なくとも、田無がアイツを好きでいる間は、麗の言う事を聞き続けるしかない。

それに、付き合うとかそういうのを抜きにしても、田無には幸せになってもらいたい。

想い人の麗がロクでなしだとしても、それを知らないまま美しい思い出にして貰えれば、なんて考えている。


「・・・・・・青春だねぇ」


「・・・・・・だなぁ」


「うるせーよ!」


生暖かい視線を送ってくる二人を、怒ったフリして怒鳴りつける。

今はこれでいい。

きっといつか、全部笑って話せる時が来るはずだから、それまでは誤魔化し続けよう。

それが、今の俺に出来る全てだ。

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