噂話、欺瞞
去り際の麗の態度の変化に、不安を募らせつつ歩いていると。
「姫川クンよぉ〜、水くせぇじゃねぇかよぉ〜」
「ホントホント〜!」
先ほどまで少し浮ついた雰囲気だった二人が、一転してニヤニヤとしながらこちらを弄ってきた。
「何がだよ・・・・・・」
「あんな幼馴染がいたなんて、中学からの付き合いなのに一回も聞いてないぞ!?」
「そうだそうだ〜!」
どうやら吉崎は、俺に隠し事をされていたのが気に食わなかったようで、からかい半分、拗ね半分といった様子だ。
「いや、隠してた訳じゃないって、わざわざ言うような事じゃないって思っただけだよ」
「いやいやいや!仲の良い異性の幼馴染がいるってだけで、かなりの大事件だぞ!しかもあんな美形の人気者だ!」
何が彼をそこまで駆り立てるのか、拳を振るって熱弁する。
先ほどまで、その尻馬に乗って適当なヤジを飛ばしていた白河も、その姿を白い目で見ていた。
「・・・・・・まぁ、ひろきは無視するとして、水くさいのはホントだよ!」
「おい、オマエもか・・・・・・」
「だってさぁ、昨日の朝に時任先輩見掛けた時も、急に話遮って先行こうとしてたじゃん?」
「うっ・・・・・・!」
「なーんか怪しいよねぇ」
あの後、昼休みにキスされて、その写真を撮られた上に脅されて、仕方なく表面上仲良くしています。
なんて説明できるか!
「い、色々あるんだよ・・・・・・!」
正確にはあった、だけど。
「って事は、あのウワサはゆうきくんの事だったのか」
「ん?噂?」
「王子様に見初められた一年生がいるってウワサ」
「なんだそりゃ?」
思わず突っ込んでしまった。
見初められたってなんだ、おとぎ話かよ。
王子様、という異名からきてるんだろうが、悪ノリが過ぎる。
「昨日、朝から一年の教室近くで、とある一年生について色々と聞き込みしてる時任先輩を見かけた、って話があって」
もしかして、昨日の朝に感じた視線の原因はそれだったのだろうか。
「で、昼休みに、その子を時任先輩が攫って、二人で何処かへ消えていった・・・・・・ってウワサ」
噂どころか完全に俺の事だった。
というか、その噂が当の本人には届いていないってのはどういうことだよ。
白河の話を聞きつつそんな事を考えていると、吉崎も話に混ざってくる。
「あー、それ俺も聞いたわ。とある、ってのが誰かはわからんかったけど」
「時任先輩が、『私が聞いて回ってるって言わないで』って頼んでたかららしいよ」
「噂、出回ってるじゃねーか!」
「まぁ、一応名前は伏せて出回ってるから、ギリセーフ・・・・・・なんじゃない?」
「なんだその基準・・・・・・」
二人の会話を黙って聞きながら、麗の意図はなんなのか推理してみる。
一つ目、俺について知りたい事が本当にあって、そのために聞き込みをした。
これは、違うな。
入学して二ヶ月そこそこの同級生の事など、急に尋ねられたところで大した情報は得られないと分かるはずだ。
しかも俺自身そこまで社交的な人間ではないし、それは麗も知るところだろう。
二つ目、俺の交友関係を探ろうと、うちのクラスの人間に話し掛けて回った。
これも違うか。
クラスの連中とはそこまで仲良くないが、俺がよく吉崎達とつるんでいる事は知っているはずだ。
しかし、さっきの麗の態度を見る限り、二人の存在を予め知っていた様子はなかった。
三つ目、そもそも、こうやって噂になる事自体が目的だった。
なんとなく、これが一番しっくり来た。
その真意は分からないが、アイツが好みそうな回りくどいやり方だ。
「・・・・・・まぁ、わかった所でどうする事も出来ないけどな」
「ん?姫川、なんか言ったか?」
「あ、いや・・・・・・。噂ってのは当てにならんなぁって言っただけだ」
「ありゃ?じゃあ、攫われたのはゆうきくんじゃなかったって事?」
拍子抜けしたような表情の白河。
コイツ、楽しそうだな・・・・・・。
「いや、俺だけど俺の事じゃないというか・・・・・・。ただ連れだされて、一緒に昼メシ食いに行っただけだよ。久しぶりに会ったから近況報告も兼ねて、な」
「へー」
嘘ではない、真実でもないが。
このままでは、噂に尾ヒレが付いていって、最後は俺と麗が付き合ってる、なんて話になりかねない。
それでは、あの写真を田無に見られるのと変わらない。
「白河、頼みがあるんだが」
「お、ゆうきくんからとは珍しいね。なになに?」
「今の話、噂を話してたヤツらにしてくれないか?俺の名前出してもいいからさ」
「良いけど・・・・・・なんで?」
「ほら、噂が大きくなって付き合ってる!なんて話になったら、田無にアピール出来なくなるだろ?」
「え、まだ諦めてなかったの!?」
「・・・・・・あぁ、昨日一日考えてたんだけどさ、やっぱり簡単には諦めらんねーよ」
これは、嘘だった。
あの写真をどうにかしない限り、なにも考えずに田無と付き合う、なんて到底無理な話だ。
アイツを悲しませるくらいなら、俺の気持ちなんか封印してしまおうと思っている。
「だから、な?この通りだ!」
真剣な顔を作り、白河に頭を下げる。
「ちょ!?止めてよ!そこまでしなくても大丈夫だって!」
慌てたような声になる白河に、少し罪悪感を覚えた。
こうやって真剣な"フリ"で頼めば、絶対に断らないと分かっててやったのだ。
「姫川、顔上げろって、な?」
「そ、そうだよ・・・・・・!なんか気まずいって!」
そう促されて顔を上げる。
二人の顔は対照的で、吉崎は優しげな表情を、白河は戸惑うような表情をそれぞれ浮かべていた。
「昨日も言ったけどよ、今更そんな仲でもねーだろ?んな深刻そうな顔すんなよ」
「噂の件、ちゃんとウチから話しておくし、みゆちゃんとの事も、きちんと応援するからね!」
「・・・・・・ありがとう、二人とも」
「だから気にすんなって!」
「そうそう!」
本当に良い友達だ。
だからこそ、俺の中の罪悪感がずしりと、また重くなっていくのが分かった。
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