遭遇、不穏
時任麗という人間は、どうやら高校生になった今も、王子様として慕われているようだった。
さすがに小学生の頃のように、露骨にキャーキャー騒ぎ立てられる感じではないが、ただ歩いているだけだというのに、女子の(そして一部の男子の)視線を集めていた。
一緒にいる俺にも、嫉妬混じりの鋭い視線が集まっていたのは言うまでもない。
「注目されているのが気になるかい?」
「・・・・・・いや、大丈夫だ」
居心地の悪さを感じつつ隣を歩いていると、麗が小声で尋ねて来た。
こちらの心を見透かしたようなタイミングでの問いに、なんだかそのまま同意するのも癪だと思い否定する。
こんな考えすらも見透かされてそうで、少々気味が悪いが。
「そう?じゃあ、今ここでボクが抱き着いても大丈夫かな?」
「そんな事したらダッシュで先に行くぞ」
「おや、ヒメちゃんにボクが振り解けると?」
「・・・・・・」
昨日見事に投げられたばかりなので、なんとも言い返せない。
「あれ?怒った?恥じる事はないよ、ボクが強いのにはちゃんと理由があるから」
「なんだそりゃ・・・・・・」
知りたい?とばかりに、ずいっとこちらに身を寄せてくる。
が、真剣に相手をするだけ無駄だ、と思い適当な相槌で返す。
まだ登校中だというのに、余計な体力も気力も使いたくない。
「・・・・・・理由はね」
そんな俺の反応も織り込み済みなのか、構わず続ける。
先ほどよりも更に身を寄せてくる。
殆ど、俺にもたれかかっているかのような状態になっていて、周りの視線が更に鋭くなった、気がする。
勘弁して欲しかったが、止めてくれ、と言える立場ではない。
「ボクが、ヒメちゃんを――」
「あれ!?姫川じゃん!」
「しかも、隣にいるの時任センパイじゃん!すごー!なんでー!?」
俺に代わって麗を止めてくれたのは、突然現れた吉崎と白河だった。
「おう、おはよう二人とも」
「いや・・・・・・、おはよう、じゃねーよ!なんだよこの状況!?」
「なんかめっちゃ注目集めてる人達いるなー!って見てみたら、片方はゆうきくんだし、もう片方はあの時任先輩だし・・・・・・どゆこと!?」
捲し立てるように詰め寄ってくる二人。
その余りの騒ぎっぷりのせいか、俺に向けられていた鋭い視線のいくつかは消えたようだ。
俺自身も、そんな二人の様子を見て、少し張っていた気を緩める。
「・・・・・・姫川くん、そのお二人は?」
いつの間にか少し離れて立っていた麗が、にこやかにそう訊いてきた。
流石に昔の呼び方は、人前で使うには恥ずかしかったのだろうか。
「あ、あぁ・・・・・・。二人とも、中学の頃からの友達だよ。こっちが吉崎で、そっちは白河」
「あ、どもっす!」
「よろしくでーす」
俺の紹介と共に挨拶をする二人に、会釈で返す麗。
そんな何気ない仕草なのに、妙に様になっている。
「
なんだその喋り方・・・・・・。
いや、そもそもさっきまでの喋り方の方があまり一般的ではないのだが、それにしたって急にどうしたというのだろう。
「ほぉ〜・・・・・・あれ?でも、先輩って中学は違いましたよね?」
「そうなの。姫川くん、中学校に上がる直前くらいに引越ししちゃったから・・・・・・」
「あぁー、そういえば初めて話した時、越してきたばっかりだって言ってたカモ?」
「あ、確かにな」
俺の戸惑いを他所に、三人の会話は弾んでいるようだった。
そこから、他愛のない話を数往復ほど交わした後、麗は何かを思い出したような素振りを見せる。
「・・・・・・あぁ、ごめんなさい。今朝は少し用事があるのを忘れていました。お先に失礼しますね」
申し訳なさそうな表情を浮かべつつ、吉崎達に一礼をしてからそう言うと、少し急ぎ足でその場を去ろうとする。
俺の横をすれ違う時、周りには聴こえないくらいの声量で――
「昼休み、あの教室で」
そう言い残して去って行く。
その声色は、先ほどまでにこやかに話していた人間とは思えないほど、冷たいものだった。
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