待伏、青春
あの呼び方をされたからだろうか、なんだか懐かしい夢をみた気がする。
楽しいような、寂しいような、笑えるような、泣きたくなるような、そんな夢だ。
つまりは、最悪の目覚めだった。
結局、昨日の昼休みでの一件後、麗はあっさりと俺を解放した。
いや、そもそも別に監禁されていた訳でもないのだから、解放されたというのもおかしな話だが。
クラスに帰ってからは、朝以上の好奇の視線に晒され、精神をガリガリと削られるはめになった。
麗による"投げ"の身体的ダメージも相まって、放課後までの記憶がぼんやりとしている。
「はぁぁ・・・・・・」
失恋だけでも辛いのに、脅迫までされているこの状況は、文字通りに頭が痛かった。
吉崎達には、体調が悪い、とだけ伝えて帰ってしまったため、なんだか余計な心配を掛けてしまっているだろう。
だが、何よりも気掛かりなのは――
「麗・・・・・・!」
どこまでが本気なのか、なんて生温い事をは考える事自体が間違っていた。
アイツはどこまでも本気で、どこまでもふざけている。
少し離れていて気が緩んでいたらしい、そんな事を忘れるなんて。
気を引き締めろ、簡単に動じるな、自分にそう言い聞かせつつ、登校の準備に入った。
「おはよう、ヒメちゃん」
家を出てすぐの角を曲がると、そこに麗が居た。
その爽やかな笑顔に、すぐ脇を通ろうとしたOLさんが釘付けになっている。
「・・・・・・なんでここに居るんだ?」
「一緒に登校しようと思ってね。曲がり角でばったり!っていうのも素敵だろう?」
こちらに問い掛けるように小首を傾げてみせる麗。
他の誰かが見れば、大変に魅力的であろうその仕草は、俺からすれば寒々しいものだった。
そもそも、俺の質問の意図はそこではない。
「中学の頃引越してから、新しい住所を教えた覚えはないんだが?」
引っ越した"事情"に関係しているため、麗の両親にも伝えていなかったはずだ。
「そんなの、ヒメちゃんと一緒に帰ればすぐ分かるよ?」
事も無げにそう言い放つ姿に、さっき覚悟したばかりなのに少し動揺してしまう。
コイツにまともな倫理観を求めてはいけない。
「・・・・・・そうか、わかった」
「うん、お利口さんだね」
あの写真がある以上、下手に刺激する訳にもいかない。
田無に前もって事情を説明するか、麗の望み叶え続け隙を見て消すか、いずれにせよ、今は時間を稼がなければならない。
そのためにも、少しでも麗の機嫌を損ねないよう、従順なフリをするのだ。
自分の心を殺してでも。
「さぁ、行こうか」
「おう」
「なんだか元気がないね?手を繋いであげようか?」
「そんなモンで元気になるかよ!」
「えー、小さい頃は喜んでたのになぁ」
「・・・・・・俺らも、もう高校生だぞ?」
「んー・・・・・・あぁ、なるほど。つまり、腕を組みたいって事かな?」
「なんでそうなんだよ!?」
我ながら、なんて気持ちの悪い仲良しごっこだ、と思った。
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