回想、追憶 2

倉敷沙耶香くらしきさやかは、時任麗とは正反対の人間だった。

穏やかそうな顔立ちと、長く綺麗な黒髪が相まって、見た目だけなら清楚なお嬢様に見える。

しかし、その中身は外見とは正反対だった。


『よお!倉敷沙耶香だ!お前がヒメちゃん、だっけ?・・・・・・ヒメってツラかよ!』


初対面だというのに、豪快に笑いながら失礼な事を言ってのけるその姿に、俺は呆気に取られた。

豪快なのは笑い方や喋り方だけでなく、その行動力もまた凄かった。


『差し入れにジュースとお菓子持ってきたんだ、皿とグラス出してくれよ』


『男なんだし、ゲーム機の一つくらい持ってんだろ?・・・・・・部屋にある?んじゃ取りに行こうぜ!』


『おっし!じゃあ、このゲームで最下位のヤツは罰ゲームな!』


場を仕切るのが好きなのか、あるいは天然でそう振舞っているのか、どちらにせよ、関わらないようになんて考えを忘れるくらいには、倉敷と過ごす時間は楽しかった。


『次、麗の番だぞ』


『ふむ、ここでボクがビリを回避するためには、ヒメちゃんを犠牲にするしかないようだね』


『止めろバカ!それじゃ倉敷の思うツボだぞ!?』


『はっはっは!どーせアタシにゃ勝てないんだから、ひと思いにやっちまえ時任!』


『ヒメちゃんごめんね』


『あー!!俺の物件が・・・・・・!!』


どこか距離を感じていた麗との関係も、彼女を介して接する事で、なんだか普通の幼馴染に戻ったような気がした。

なんだか久しぶりに、心から楽しかった気がした。




楽しい時間はあっという間だというが、本当に一瞬で過ぎて行ったような感覚だった。

夕方、玄関で靴を履く二人を眺めつつ、そんなことを思う。


『姫川、今日は急に邪魔して悪かったな』


『それに関しては、百パーセント麗が悪いから気にしてない』


『おや、心外だな・・・・・・。ボクは、一人ぼっちで可哀想なヒメちゃんにお友達を紹介しただけなのに』


言葉だけは殊勝だが、麗の顔はからかうようにニヤニヤとしている。

最近一人ぼっちなのはお前が原因だよ、と言いそうになったが、変な気を回して余計な事を言った自業自得だったかもな、と思い直す。

麗なりに、俺の現状を察して励ましてくれたのかもしれない、そう思った。

そう考えられるくらいには、心に余裕が出来たのだろう。


『・・・・・・・・・・・・二人とも、今日はありがとうな』


だから、魔が差した、というか、絆された、というか、まぁとにかく、思わずそんな言葉が出てしまった。


『・・・・・・おう、また来るわ』


『うん、また三人で遊ぼうじゃないか』


恥ずかしさのあまり、真っ赤になって俯く俺の姿に、二人は優しく笑ってそう言ってくれた。

今日初めて揃ったはずなのに、とても心地が良かった。

もしかしたら、この三人なら大人になってもずっと、こうやって楽しくやれるんじゃないか、そんな風に思えた。


その時は。

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