第17話こずえさんの誤算03

後で分かったのだが

どうして川上さんとこずえさんの会話が奥さんに筒抜けだったかというと

川上さんがこずえ宅から奥さんに電話をした時に受話器が完全に切れていなかったのである。

日頃、疑り深い奥さんは電話をすぐに切らないでずっと聞いていたという

川上さんの自業自得かもしれない。


それから数日たった土曜日。

川上さんはついに会長から呼び出しがあった。

ここは市内でも有名な高級住宅地で高い塀に囲まれて

門からお屋敷が見えないくらい広い敷地面積を誇る豪邸は

贅の限りを尽くしていた。

回廊式とでもいえるような見事な日本庭園を望む客間に通され

そこには厳しい顔の会長が待っていた。


『失礼します』

『川上君ここへ座りたまえ』

『はっ、失礼します』川上さんは緊張しきっていた。

『今日は呼び出したりして悪かったねぇ』

『い、いえ・・・』

『この前、由紀子が突然やってきてだ、

まあ単刀直入に言うと君と別れたいそうだ。

長年連れ添って子供も社会人になったというのに

何を急にそんな事を言い出したかと聞いたのだが

もう川上とは一緒に住めない!

別れたいの一点張りで君も知っていると思うが

あいつは頑固で一度いいだしたらわしにもどうにもならん。

もう君の居る家にも帰りたくないそうだ』

『・・・。』

川上さんはまさかここまで話しが大きくなってしまったのかと

どうにも弁明の言葉も見つからずただ下を向いたままだった。

『わしも気になってな、一応君のことを調べさせてもらったよ。

風花というクラブへかなり通っているらしいじゃないか。

そこのこずえという女にいれあげてると業界でも

有名な話しだったようだ。

こんな狭い町ではすぐに噂は広まるからな。

まあ浮気は男の甲斐性だ。

わしも若い頃には女の一人や二人浮名を流したものだ。

だがな由紀子のやつにはそんな道理は通じない。

まあ君には悪いが女房ひとり満足させられないにやつに

会社も任せられないと判断した。

今度の取締役会で君から辞意を表明してくれないだろうか』

『会長!そんな急に!

お言葉を返すようですがこれはただの浮気ですよ。

みんなやってることじゃないですか!

夫婦喧嘩で社長を辞めさせられるなんて

聞いたことがない。あんまりだ!』

『おい!いい加減にしないか!

わしが穏便に話しをしようとしているのがわからんのか!

原因を作ったのも女房に出ていかれたのも

君のせいじゃないのか!

辞任ではなく解任になってもいいのか!

よく頭冷やして出直しなさい!』

と会長は席を立った。


(俺はなんてことしたんだ・・・。

今まで築き上げた全てが音をたてて崩れ落ちてしまった)


その日の夜

『もしもし川上さん?電話待ってたのよ、

それがあの物件なんだけど』

『・・・』

『川上さん?どうしたの?聞こえてる?』

『ああ、それが大変なことになった』

『どうしたの?大変なことって、何かあったのね』

『それが・・・。悪いがあの店の融資の話しだめなんだ。

駄目になった。すまん。』

『すまんって何よ、もう手付け払っちゃったのよ!

他にも見にきている人がいるから早い者勝だって!

どうしてくれるのよ!もう・・・』

『俺、会社を辞めることになったんだ。

詳しいことは勘弁してくれ。だからもう君とも会えない・・・』

『そんな、突然やだぁー、急にどうしたのよ、いったい』

『もういいだろう。もう俺のことあてにするな!』

とガチャと電話が切れた。

こずえさんはその場に足元から崩れ落ち途方に暮れた。


その後、川上さんは会社を辞めて離婚と同時に家も追い出され

人知れず何処かへ行ったという風の噂が流れた。

そしてこずえさんは出店できなくなりお店も辞めて故郷へ帰っていった。

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銀座ドリーム~どヘルプから銀座老舗のオーナーママになるまで~ mizuki @ginzadream

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