第16話こずえさんの誤算02

こずえさんは

ほろ酔い気分だったが

急に真顔になって川上さんの手を取って甘えた声で言った。

『川上さんお願い!今日見たお店どうしても手に入れたいの』

『ううん』

『でもねぇ、予算のほうが少し足らなくて川上さんに何とか都合してもらえないかなって思っているのだけど・・・。』

『そ、そうかぁー。いや突然で驚いたよ。

そうだな、それでどのくらい用意すればいいんだ』

『嬉しい!私もう何て言っていいか!』

『ちょっとちょっとこずえちゃん俺まだ何も言ってないぜ。

まあ何とかしてあげたいなぁとは思うよ。こずえちゃんは

俺の恋人だからな。だけどなぁー』

『だけどって何!まさか応援できないって訳!

今、足らないの500万くらいよ。

何も全額出してくれって言ってないし月々ちゃんと返すわよ』

と急にこずえさんは怒りに任せて大声になった。

『こずえちゃん落ち着いてくれよ。俺だって何とかしたいさ!

でも女房に財布握られているし今ここで約束できないって言ってるんだ!』

『もう、しっかりしてよ!あなた社長でしょう!』

『なぁ、そう怒るなって、分かったから、だけど2、3日待ってくれないか。

算段しないといけないし、500万なんていくら社長でも

右から左ってわけいかないよ』

『そうよね、分かったわ。ああー今日は何だか疲れちゃったぁ。

川上さん帰ってもらっていいかな?』

『えっ?今、来たばかりだっていうのにやっぱり怒ってるの?』

『そんなことないわよ。ただ今日は早い時間から外出してて何だかだるいのよ』

『そうか。わかったよ。帰るよ。また明日電話するから』

『じゃそういうことで。。。』とこずえさんは投げやりに言った。

川上さんはそんなこずえさんからの急な提案をどうしたらいいものかと

お金のことで頭がいっぱいでこずえさんの態度も何も見えずに

そっと帰って行った。


その夜の川上宅。

『ただいま、おーい今帰ったぞ』

(おかしいな?明かりもついてないでどうしたんだ。)

20畳ほどの居間は重厚で趣のある内装が施され

壁には有名画家の絵画が飾ってある。

その広い部屋が妙に静けさに包まれていた。


『あっ!なんだお前いたのか!どうしたんだ』

『・・・。』

『こんな暗いところで何しているんだ』

『あなた!よくも!よくも!私をだましてくれたわね』

と奥さんは悲鳴に近い声で怒鳴った。

『えっ?だました?何いきなり言っているんだ』

『私が何も知らないとでも思っているの?』

『おいおいよせよ。またいつもの焼きもちか、ちょっと遅くなるとこうだからな』

『あのね。じゃ500万の話をしてあげましょうか!』

『・・・。500万って何の話だ』

川上さんはだんだん青ざめてきた。

もしやこずえが女房に電話したのか?

『とぼけてもだめよ。私この耳でちゃんと聞いたんだから!』

『だからそんな話、知らないしいい加減なこと言うなよ』

『こずえちゃんは俺の恋人だ!・・・って言ってたでしょ!』

『何なんだ!電話があったのか!』

『ふん、白状したわね。どこからも電話なんてないわよ。

あなたそのこずえって女といつから付き合ってるの?』

『付き合ってなんかいないよ。誤解だ!誤解!』

『あのね。誰が付き合ってもいない男からお金を引っ張ろうとする女がいると思う?』

『じゃ本当のことを言うからちょっと落ち着いてくれよ』

もう川上さんは必死だった。

『どこからそんな話を聞いたか知らないが

そのこずえっていう人が今度お店をだすから俺に融資してくれと頼まれたんだ。

月々返済するという約束だからもし貸したとしてもそんな関係じゃないんだ』

『返すなんて言ったって返すわけがないと思わないの?

明日、父と相談します。このままじゃすませないわよ。絶対に!』

『頼むよ・・・。なあ・・・。』

奥さんはそう言ってドアをバタンと閉めて2階へと消えた。

残った川上さんは子供のように丸くなって意気消沈した。

急な展開にこの先のことを考えると不安で仕方がなかった。

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