第15話 こずえさんの誤算

 もうお勤めしてから何年になるだろう。

美涙さんは見事に復活を遂げ今や押しも押されぬ

看板娘で毎日を楽しんでいる。

私もベスト5の殿堂入りで仕事の楽しさが分かってきた。


暑い夏の一日。

いつの頃か我が家は毎週末は麻雀ルームに変身し

蘭子ちゃんや麻衣ちゃんそしてお店のスタッフ連中

それから毎週変わるゲストがいて

7、8人くらい、いつもいるだろうか?

やれおにぎりだとか焼きそばだとか

雀荘顔負けのサービスで賑やかだ。

まあ料理は得意な蘭子ちゃんが主にシェフで

私はみんなのお世話役。


『今日のおすすめは?』

『今日はね、我が家特製の冷汁!』

『またか、美月ちゃん好きだよね。それ』

と同じ年のボーイのアトちゃんも常連さんだ。

本当は阿籐さんだけどみんながアトちゃんと呼んでいた。

『そんなこと言うと作ってあげないから』

『うそ、うそだよ。美月ちゃんの冷汁は他じゃ食べられないくらい美味しいよ』

『まあよしとするか』と自分は麻雀が弱いからあまり参加しない。

今日のゲストはお店の常連さんで川上さんという建築会社の若社長。

いつも人を笑わせるのが趣味みたいな陽気な人でみんなから好かれている。


そして今日は珍しい女性も一緒だ。

こずえさんという人でまだ最近入ったばかりで体は小柄でスリム。

なのに胸はEかFカップでいつも胸を強調するドレスで

かなりのセクシー系。

顔はキツネ顔で気が強そうだ。

『ねえ、川上さんもう帰りましょうよぉ』

とこずえさんは甘えた声でしな垂れかかった。

『わかったわかった。後、半チャンだけ!お願い!』

とおどけた川上さんはまだ帰りたくなさそうだ。

『そうなの、私、お腹空いちゃったぁ。お寿司たべたいなぁー』

(感じ悪い~!さっきは食欲なくてなんて言ってたのに)

『こずえさんちょっと』と蘭子ちゃんが見兼ねてこずえさんを呼んだ。

『こずえさんねえ洗い物あるんだけど手伝ってくれないかな?』

『はあ?私が?なんでそんなことしなきゃいけないの?私帰る!

川上さぁ~ん、私、明日早いからもう帰るね!』

『ちょっと待って!こずえちゃん!

送っていくから。あっ!それロン!

大当り!リーチ一発!リューイーソー。『發』待ってました!アトちゃん悪いね』

と川上さんの一人勝ちで麻雀はお開きになった。

その後二人は笑いながら帰って行った。


ここはこずえさんの自宅。

一人で住むには広い2LDKで寝室には

キングサイズのベットが置かれている。

二人は部屋に入ると同時にお互いの洋服を脱がしあい

待ちきれないようにベットへと急いだ。

そして暑い夏に熱い時間は瞬く間に過ぎていった。


『私、ずっと川上さんみたいな人探していたのかも。

奥さんいたって平気よ』

『こずえちゃん俺、嬉しいよ。こんな美人に惚れられて、なんちゃってさ、

いやはや照れるなぁ。だけどさぁー俺、ここだけの話し婿なんだよね。

女房のおやじっていうのがまた頑固でさ。

この間、持病の心臓の具合が芳しくなくて入院して

気が弱くなったのか自分は会長になるっていいだしてさ、

俺が社長になった訳だけど前と変わらずワンマンなんだよな』

と川上さんは愚痴をこぼした。

『ふーん、川上さんも大変なんだ。気疲れしちゃうよね。

それで奥さんはどんな感じの人なの』

『またそれがさ、会長に負けず劣らず頑固!

一度言い出したらぜったい譲らなくて、ありゃ間違いなく会長のDNAだよ。

それに異常なほどやきもち焼きでさ。

俺がちょっとでも遅いとクンクン臭い嗅ぐし信じられないこと

平気でやるんだ。たまんないよ、まったく』

『そうなんだ、それじゃ川上さんの居場所ないじゃん』

『嬉しいなぁ、俺のこと分かってくれるのこずえちゃんだけだよ』

と川上さんは愛しむようにこずえさんを抱きしめた。

『ところでこずえちゃん兄弟は?』

『私?妹が一人いて年子なのよ。

それで将来は一緒にお店やるのが夢なの』

『こずえちゃんまだ若いし何でもできるよ・・・』


それから毎日のように

川上さんはこずえさんと同伴で

お店に来るようになり麻雀ルームには顔を出さなくなった。


そして数ヵ月が過ぎたある日

『ねえ、川上さん私、前にも言ったけど自分のお店を出したいの。

それが急だけど隣町にいい物件があるって知り合いの不動産屋から連絡があったの。

それで明日見に行くことになったのよ。川上さん一緒に行ってほしいなぁ』

『明日か?業界の集まりがあって時間がないな』

『なんだ、つまんない。いいわよ。それじゃ誰が他の人探そうかな』

『分かった、分かったよ。会合途中で切り上げるからそんなすねた顔するなよ』

『わあ嬉しい!やっぱり川上さん頼りになるわぁー』

とこずえさんは川上さんに抱きついた。


翌日二人は隣町の駅近くにある15坪程のお店を見に行った。

『なかなかいいお店ね。内装を少し直せばすぐにでも使えるかも。

川上さんどう思う?』

『うん、駅にも近いし場所も悪くないな。

まあ、あまり広くはないけどこのほうが目が届くしいいと思うよ』

『じゃ決めちゃおうかな、

そうだ!これからお食事行きましょうよ。相談したいこともあるの』


その夜こずえさんの自宅。

『今日のお肉美味しかったわね』

『うん、あっ、そうだ。ちょっと電話貸してくれる。

うちのがさ、電話しないとまた騒ぐから、すぐ済むから』

と川上さんは自宅に電話して仲間内で打ち上げがあって遅くなると話した。

『やあ、また怒ってたよ。でも電話して少しは安心したみたいだから大丈夫だ』

『そう、それより大事な話しがあるのよ』

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