第25話 革新派の台頭
ある街角のカフェ。パラソルの下の席で、女が新聞を広げて読んでいる。小見出しには『新会長は革新派黒崎栄太氏へ』『日本魔術機関左翼化か?』などと羅列している。
「隣、いいかね?」
すると、古い紳士服を着た老人が、帽子を片手に相席を所望してきた。
「どうぞ」
女はさも興味がなさそうに、新聞を見ていった。
「どうも」
老人はそういうと深々と腰をかけた。
時間は平日の昼過ぎ。あまりカフェには客がいなかった。楽しそうに雑談する店員の声が聞こえる。
「成功したみたいね」
「まあ、のう」
ペらりと新聞をめくる音がする。
「こっぴどくやられたみたいね」
「ほほほっ。歳は取りたくないのう」
またぺらりとページをめくる。
「そうね。あと、それを彼の前で言わない方がいいわ。人体改造されちゃう」
「残念ながら儂はすでに手遅れだがのう。これ以上悪化はすまい」
そういうと和服の老人ーー夢想妄言は人が良さそうに笑った。
「これでフェイズは次に移行。響子を殺せなかったのは残念だけど、なんとかなるでしょう」
女は新聞を畳むと、立ち上がった。
「おや? 慢心かね? それはいかん。儂らはそれで負けたからのう」
「貴方たちと一緒にしないで。私は計画の邪魔が嫌なだけ。完成してしまえば誰も手出しできないわ。……それにーーあの女より私の方が強い」
「ほう、そうかい」
「ええ、そうよ」
女は微笑むと、カフェの出口に向かう。
途中、ゴミ箱に新聞をほうり捨てる。 振り返ると、パラソルの下には誰もいなかった。
すると、どこからか生暖かい風が漂う。女はそれに気が付き声をかけた。
「それにしてもまた役立たずだったわね? ピエール?」
そう呟くと、どこからともなく胡散臭い声がした。
「役立たずとは失礼な。今回は私は魔取相手に結界を張ってましたよ? 普通に善戦だと思いますが?」
「……冗談よ。報酬は後で振り込んでおくわ」
「ありがとうございます。より良い関係は金より産まれる。世の中金が全て、ですからね」
「……そう言えば、あの子借りていいかしら?」
「ええ構いませんよ。存分に使ってあげてください。では、私はこれで……」
突然、強い風が吹き、女のスカートをひらひらと揺らす。それ以降声はしなくなった……。
その後、女は無表情のまま携帯を取り出し、どこかに連絡を始める。
「私。ええ。そう。もう一度貴方にチャンスをあげるわ。次はしくじらないでね? ーー田中次郎」
そう言って電話は切られた。
魔術師響子さんの事件簿 新関眞宗 @kurusuharumitu
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