2つの質問だけで好きな人を当てちゃうから!

タマゴあたま

2つの質問だけで好きな人を当てちゃうから!

「やったー! 勝ったー!」


 目の前で中井さんがぴょんぴょんと跳びはねる。背の低さもあって、うさぎみたい。


「これでやっと橋本くんの好きな人がわかるねー!」


 中井さんがびしっと人差し指を突きつける。ぐぬぬ。


「それにしても、よくこんな勝負に乗ってくれたねー」

「だって、勝ったらドーナツおごってくれるっていうから……」

「この勝負のためにたくさん努力したからねー。それにしても、橋本くんがドーナツ好きってのは知ってたけど、まさかこんなに簡単とはね」


 中井さんは口に手を当ててくすくすと笑う。


「いつもは僕のほうが点数高かったのに」

「まあ、たとえ一点差でも勝ちは勝ちだからねー」


 中井さんはテストの答案用紙をひらひらとさせる。


「さあ! 観念して好きな人を教えたまえ!」


 中井さんが顔を近づけてくる。ち、近いよ!


「あ、あのさ。たった一点差だから、ちょっとまけてくれない? 名前を教えるのはさすがに恥ずかしいというか……」

「うーん。仕方ないなあ。少し譲歩してあげよう」

「よかった」


 僕はほっと胸をなでおろす。


「じゃあ、二つの質問だけで許してあげるよ。その代わり、絶対答えてね」

「うん。わかった」


 たった二つの質問で好きな人が特定されることもないだろう。


「橋本くんの好きな人ってさ、このクラスにいるんだよね?」

「それが一つ目の質問?」

「ううん。これはただの確認。前に教えてもらったことだからねー」

「そっか。うん、このクラスにいるよ」

「オッケー。それなら一つ目の質問! 『橋本くんの好きな人は右から何列目の席ですか?』」

「そんなことでいいの? 四列目だよ」

「四列目ね。いち、に、さん、し。あ、私と同じ列だね。よし、次が最後の質問ね」


 そう言うと中井さんはにやりと笑う。なんだか嫌な予感がする。

 ――は! しまった! 


「ねえ、やっぱりなしにしない? 質問回数はリセットしていいからさ。別の質問にしてくれない?」

「ふふふ。気づいたみたいだね。でもだめ。この質問には絶対答えてもらうよー。『橋本くんの好きな人は前から何番目の席ですか?』」

「やっぱりそうだった! 好きな人の名前を教えるのと同じじゃん!」

「諦めたまえ橋本くん。さあ何番目なのかな?」

「五番目です……」


 うつむきながら、ぽそりと言う。


「五番目ね。いち、に、さん、し……、ご? ねえ、席の場所、本当に合ってる?」


 たぶん、中井さんは首をかしげているのだろう。


「合ってます……」


 顔があげられない。


「だって、この席、私じゃん」


 そう。僕は中井さんが好きだ。

 まさかこんな形でばれるとは思わなかった。


 中井さんが静かになっちゃった。僕は顔を上げる。

 中井さんは自分を指さして、ポカンとしていた。


「あの、中井さん……?」


 中井さんの顔の前で手を振る。


「はっ! びっくりしすぎて放心してた。まさか私だったとはねー。いやー、本当にびっくりだよ」

「恥ずかしいから、もう終わりにしない?」

「でも、橋本くんは私のことが好きなんだよね。じゃあ、私の好きな人もはっきりさせておかないとね。橋本くんが叶わぬ恋をし続けると悪いから」


 え? その言い方だと僕振られるんじゃない? 聞きたくないんだけど。


「私の好きな人はねー。このクラスにいてね」


 しかも同じクラス。僕立ち直れないかもしれない。


「一番左の列で後ろから二番目の席なんだよね」


 一番左の列で後ろから二番目……?


「僕じゃん……」


 今度は僕がポカンとする。


「そーだよ。不思議な話だよねー。隣の席どうしの二人がお互いに片思いだったなんて」

「そ、そうだね」

「さてと。私は橋本くんと恋人になりたいわけだけど、橋本くんはどうかな?」

「よ、よろしくお願いします」

「よーし! 橋本くんにはドーナツをおごってあげよう!」

「え? なんで?」

「だって、両方とも勝ちみたいなものでしょ?」


 中井さんがにっこりと微笑んだ。

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