228話「思惑が交錯するお茶会」



 ~ Side クラリス ~



 今私はロランちゃんのお屋敷に来ている。目的は王族を交えたお茶会と聞いていたのだけど、まさかこんなことになっていたなんて……。



 今回参加するのは何も王族だけでなく、我がマルベルト家とも懇意にしているバイレウス家、そしてどういう繋がりなのか、上級貴族として名を馳せているローゼンベルク家も参加することになっていた。



 自分の息子ながらに思うのだけれど、一体何をしたらこんな人たちと知り合うことができるというの?



 そんなことを考えていると、バイレウス家の面々が到着されたようで、ロランちゃんの使用人に連れられてお茶会の会場へと姿を見せる。



 シャーリーン様とは、夫同士が仲のいい間柄ということでお互いに良好な関係を築けてはいる。しかし、貴族とはどんなに良好な関係でも利益を優先する際、そんな相手も平気で裏切るのが常だ。



 表面上は仲が良くても、裏ではどんなことを考えているのかがわからない。それが貴族だということは理解はしているが、人間である以上割り切れない部分はどうしたって出てきてしまうものだ。



「ごきげんよう、マルベルト夫人。あなた方が一番乗りでしたのね」


「ええ、今回参加する貴族家の中で私たちが一番爵位の低い家ですから」



 通常、こういった集まりは爵位が一番下の人間が先に会場に入り、爵位が上の人間になればなるほど後に入るのが通例だ。



 ロランちゃんもそれを理解しているのか、男爵家のマルベルト家が一番に会場に案内された。それは決して間違ってはいない。



 しばらく、バイレウス夫人やその娘の令嬢たちと歓談していると、ローゼンベルク家の面々も到着する。



「皆さまごきげんよう。遅れて申し訳ありませんね」


「いえいえ、問題ありません」


「お気になさらず」



 これで王族を除いた今回のお茶会の出席者が出揃ったが、話題が私の息子の話で持ちきりだった。特にどんな女性が好みなのかについての質問が飛び交った時は、場の雰囲気が一瞬戦場にいるような雰囲気となってしまうほどに……。



「息子とは最近お話しできておりませんので、どういった女性が好みかはわかりかねます」


「そういえば、マルベルト家はどうして彼を追放なさったのかしら?」


「そ、それは」



 そのことについては、私も最近になって知ったことでした。追放されたロランちゃんが、人が変わったかのようになっていたことがどうしても腑に落ちなかったので、マークちゃんを問い詰めたところ、すべてはロランちゃんの策略だったということを聞かされました。



 しかも驚いたことに、その策略はマークちゃんが四歳の頃から始まっていて、ロランちゃんがマルベルト家を追い出されるまでの六年もの間ずっと続いていたらしい。



 確かに、今思い返せばロランちゃんの態度が一変したのも六歳頃からだった気がするわ。その頃からマルベルト家を出ようとしていたなんて……。



「おやめなさい、マレリーファ。あまり他家の事情を無暗に聞くものではないものよ」


「は、はい。マルベルト夫人申し訳ありません」


「いえ」



 マレリーファ様の言葉を窘めるミラレーン様ですが、騙されてはいけない。おそらくだけど、マレリーファ様のお聞きになったことは、ミラレーン様が本来聞きたかったことのはず。自分の手を汚さずして必要な情報を手に入れようとするあたり、さすがは上級貴族の奥方といったところかしら。



 でも残念だけど、ロランちゃんに関する情報は家を追放される前のものばかりで、追放された後の情報はほとんどないんだけどね。母親としてそれでいいのかとも思うけど、だってあの子自分の事ほとんど話してくれないんだもの……ぐすん。



 そんなやり取りがあってからも他愛のない会話を続けていると、とうとう王妃様と王女殿下がご到着されたようで、周囲の使用人たちの間に緊張感が伝わってきた。



「皆さま、ごきげんよう。少し遅くなってしまったかしら?」



 先ほどのローゼンベルク家とまったく同じ流れになり、お茶の用意ができるまでの間、再び談笑に耽ることになった。子供たちは子供たちで、なにやら会場の隅っこでひそひそ話をしている様子で、特に動きはない。そんな中、ふと王妃様が私に問い掛けてきた。



「マルベルト夫人。一ついいかしら?」


「なんでしょか?」


「あなたの息子のロラン、今はローランドと名乗っているようだけれど、これからどうするの?」



 それは私もあの子の母親である以上、ロランちゃんの将来について考えてはいる。特に結婚のことやマルベルト家のことも本当に継ぐ気がないのかなども含めて。



 今のあの子の様子を見ればわかるけど、ロランちゃんにマルベルト家を継ぐなどという意志はまるっきりないこと、結婚というか女性自体にそういった思いを抱いていないということも……。



 それが芽生えるのはもう二、三年ほど先になると思うけど、そうなった時にどうするのかはその時になってみないとわからない。



「今ここでどうするのかという具体的なことを言うのは難しいです。ですが、あの子が本当に困っている時が来たなら、私のできる範囲で力になってやりたいと考えております」


「そう(母親の彼女でも、御しきれていないということか。さすがに一筋縄ではいかないようね)」



 それから、お茶会の準備が整うまでの間、お互いに牽制しながらの会話に心血を注ぐのだった。

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