227話「お茶会」



「ここが兄さまのお屋敷なんですね」


「とっても素敵です」


「あらあら、ロランちゃんも立派になったのね」



 てんやわんやのお茶会の準備から数日が経過し、ようやくお茶会が開催される運びとなった。ひとまずは、今回のお茶会に協力してくれるマルベルト家、バイレウス家、ローゼンベルク家の順番に会場となる俺の屋敷に、瞬間移動で連れてくることになった。



 一応だが、お茶会が開かれる旨をしたためた告知書やら招待状やらの書面は俺が直接手渡しているが、王妃と王女以外の面々は王都以外からの参加となるため、到着するまでの時間を短縮する意味でも俺が瞬間移動で連れてきた方が効率がいい。



 ちなみに今回参加する予定の面々を紹介すると、まず実家であるマルベルト家からは母クラリスと姉弟のマークとローラが参加する予定だ。



 バイレウス家は、バイレウス辺境伯の奥方のシャーリーンにその娘のローレン、ローファ、ローリエの三姉妹が参加することになっており、次いでローゼンベルク家からは当主のドミニクの妻ミラレーンと、その息子の妻マレリーファ。そして、さらにその娘のファーレンが参加することになっている。



 最後にシェルズ王家からは、王妃サリヤとその娘のティアラとシェリルが参加することになっており、かなり豪華なゲストとなっている。



 個人的にあまり良くない組み合わせではあるものの、お茶会の雑事についてはソバスたち使用人が主体となって各貴族家の助っ人と連携してやってもらうため、俺の仕事はゲストを会場まで連れてくることと、参加者の一人としてお茶会に出席するだけとなっている。



 ちなみに、ランドールやバイレウスなどの男性陣はというと、当主としてやらなければならない執務が山積みらしく、お茶会に参加することはできないとのことだ。



「じゃあ、こっちが会場になるから先に行って待っててくれ。ソバス来賓と助っ人の人たちの指示を任せた」


「かしこまりました」



 各々にそう言うと、俺は次にバイレウス家へと瞬間移動する。



 豪奢なドレスに身を包んだ一人の女性と三人の少女たちに加え、給仕を手伝ってくれる人たちが出迎えてくれる。



「初めまして、私はバイレウス辺境伯の妻シャーリーンよ。あなたが、噂のローレンの恋人かしら?」


「お母様!」



 いきなりの質問だったが、辺境伯の夫人ということもあってか、目の奥にはこちらを値踏みするような視線が混じっている。どうやら、俺という人物を見定めようとしているらしい。



 残念ながら、そういうのはどこかの小説に登場する顔は普通だが何故か異様に女にモテる主人公だけで十分だからな。俺は彼女の質問に首を横に振る。



「ローランドだ。冒険者をやっている。そんな関係じゃない、ただの顔見知りだ」


「そう……(今はローレンの片思いなのね。ここは母親である私がなんとかしてあげなくちゃ!)」



 俺の否定の言葉を聞いて明らかに気落ちするローレンだったが、俺にその気がない以上ここで中途半端なことを言えば、返って妙に期待させてしまうからな。こういうことはきっぱりと言った方がいいのだ。



 そんなことを考えていると、先ほどのやり取りから復活したローレンが俺に問い掛けてくる。



「ロラン様、どうでしょうか? 似合ってますか?」



 何がだというのは無粋なのだろうと胸中で思いながらも、改めて彼女の姿を見る。豪奢なドレスに身を包んだローレンは、贔屓目なしに見てもとても美しい少女だった。



 豪華なドレスというのは、着る人が着れば着ているというよりも着られているという表現が正しいものになってしまうことがあるが、ローレンはちゃんとドレスを着ている人間だったようだ。



「ああ、とても良く似合っていると思うぞ」


「そ、そうですか。良かったです」


「あらあら(本当に彼のことが好きなのね。なら、このお茶会は私たちにとっては勝負ね)」



 俺の賛辞に、顔を赤くさせながらもじもじとした仕草をするローレン。それを見たシャーリーンが何やら、含みのある反応を見せるも、人の心の中を覗き見るようなスキルは持っていないので、その心中を察することはできない。



 下二人の姉妹との挨拶もそこそこに、俺は彼女らを会場へと送り届けた。クラリスたちと同じくソバスにすべて丸投げし、そのままローゼンベルク家の屋敷へと移動する。



「初めまして、ドミニクの妻ミラレーンといいます」


「その息子ドレンの妻マレリーファです」


「その娘のファーレンです」


「お前は知ってるよ」



 バイレウス家と同じように助っ人の使用人たちに見守られながら、各々の自己紹介から始まったが、このミラレーンとマレリーファも同じく、さり気なくこちらを値踏みするような視線を向けてきていた。おそらく貴族独特のものだとは思うが、こんな居心地の悪い思いをしながら談笑しなければならない貴族などにならなくて本当に良かったと安堵している。



 こちらも簡単に自己紹介をし、すぐに会場まで送り届けようとするも、ミラレーンが俺に問い掛けてきた。



「ところで、孫のファーレンとはどういった関係なのです?」


「ただの顔見知りだ。それ以上でもそれ以下でもない」


「そうなのですね(あら、この子。若い時のあの人にそっくりね)」


「そうなんですか(いやだわ、この子。若い時の旦那様にそっくりじゃないの)」



 再びバイレウス家と似たようなやり取りがあり、さらに同じくファーレンの着ていたドレスを褒めると、顔赤らめもじもじとするのを微笑ましく見ている二人という構図になった。



「微笑ましいですわね(マレリーファ、この子は絶対ファーレンとくっつけさせるわよ)」


「本当に、初々しいですわ(わかりましたお義母様。必ずやファーレンと婚約させましょう)」



 何か妙なアイコンタクトを取っている二人だったが、やはり人の心の中を覗き見ることはできないため、彼女たちの心中を知ることはできなかった。



 そんなこんなでローゼンベルク家の面々も会場へと送り届けると、俺は現在の状況を確認するため、ソバスの元へと向かう。



「どんな状況だ」


「特に問題ございません。皆さまサーラ様とサーニャ様とご歓談中でございます。後は王家の方々がいらっしゃれば、すぐにでも始められます」


「なら、迎えに行ってくるから、引き続き準備をよろしく頼む」


「かしこまりました」



 ソバスにそう言い付けると、俺は瞬間移動で国王の執務室に移動する。王妃たちに送った招待状には“迎えに行くから国王の執務室で待っていてくれ”と記載したため、移動した部屋には一際豪華なドレスに身を包んだ三人の姿があった。



「待たせたな。では、行こうか」


「あ、あの。ローランド様、このドレスはどうでしょうか?」


「とても似合っているが、それがどうかしたのか?」


「い、いえ。それならばいいのです」



 これで三回目となる問い掛けに答えつつ、俺は三人を引き連れ屋敷へと移動する。会場へと移動すると、王妃たちを先に会場入りしている面子と引き合わせる。



「ではこれよりお茶の用意をして参りますので、今しばしご歓談をお楽しみください」



 お茶会の参加者にそのことを伝えると、そのまま俺は厨房へと移動した。 

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