第9話 Till the sun was shinning high
「ディグリーを倒すとは大したものだ。さすがはライラの子……」
ライサンはハウルから奪った拳銃の銃口を向ける。
「無駄な足掻きはやめろ。そんなものは効かん」
マッド・マニッシュはハーツの頭を放り捨て、転がるハウルの胸元に手を。
鍵のネックレスを引きちぎり、フリージン・ブルーを見つめる。
「こんなもの! ただのマヤカシだ」
彼はそれを飲み込み、ライサンを睨んだ。
「そう。ディグリーを裏で操っていたのは俺だ。ハウル・スプンフルに従えと命じた。ハウルの内情を探るためにな。ディグリーは完遂した。ただ、一つ……奴は失敗を犯した。戦いの末、ディグリーはライラを殺してしまった。奴は元来殺戮を好んでいたからな」
そう言ってマニッシュはクリスタル像〝ライラの像〟に歩み寄る。
――ライラ……愛しのライラ。俺は知っている。お前は仮死状態にあると。自らそうしたのだろう? 自ら戻せない術なのか? ……どうしたら、お前を呼び戻せる? どうしたら……。
金縛りにかかり動けないライサン。ただ涙が頬を伝った。
「だがスプンフルはもっとタチが悪い。美しきライラをこのように並べおって」
愛おしげに見つめるマニッシュ。
「人間というものは……想像している以上に、もっと残酷なのかもしれん。奴らは知能が高く、技術を繋いだ。この国を支配し、我々爬虫人類レプタイルズを虐げてきた。我がもの顔で。王族は我々を育てたというが、あれは嘘だ。争いの道具として利用したに過ぎん。優れた者は寵愛されても能力のない大多数は蔑まれた。奴隷扱いだった。かつて俺もライラと同じように国王に仕えていた。だがある時、俺は自尊に目覚めた」
氷のように固まったライラを見つめしばらく首を傾げた後、マニッシュは続けた。
「ライラとお前の父親シグニが恋に落ちた。相手は人間だ! 許されない、ましてや子供まで! ……ライサンお前が産まれた時、俺は国王の下を去った。姿を変え、一人彷徨い、逃げ延びた。そして〝マッド・マニッシュ〟として復讐を誓った。復讐! それは俺たちを虐げてきた人間たちへの復讐だ。それがいよいよ、今から始まるのだ」
マニッシュは鋭くライサンに視線を投げる。
「ライサン、お前は俺の部下となれ。我々の王国を築くために働くのだ。それしかお前の生きる道はない」
必死で藻搔くライサン。その目は激しく抵抗している。
マニッシュは右手を部屋の入り口側にかざし、捕まえてきた人間二人を中に引き寄せた。
側近たちは部屋の中を覗いた途端、その場に倒れ動かなくなった。
マニッシュは薄ら笑いを浮かべ、言った。
「それにしてもライトニング・スモウクスタックの奴はまだ姿を現さんな。さては怖じ気づいたか……自らの手で妻子を守れん男などクズ同然だ」
念力で引き寄せられ床に叩きつけられた二人、それはアルバータとコリーナだった。
ロープで縛られ、粘着テープで口を塞がれてる。
気を失っているだけで息はある。
「アルバータはクロスロード王の娘。我々を利用してきた王族の血……だからこそ生かしてはおけんのだ。ライサン、その銃でこの二人を撃ち殺せ!」
重くのしかかる念波。
ライサンの意識は朦朧としてくる。
マニッシュの目が白く光る。
「虐げられた我が種族の怒り、悲しみ……どうだ? ライサン、レプタイルズの血が騒ぐだろう。今のお前は俺に逆らえん」
ライサンの腕が勝手に動く。表皮が波打ち、温もりが薄れてゆく。
唸り声を上げ、冷血な歯を光らせた。
「撃つんだライサン、人間どもを排除しろ! 撃てっ!」
ライサンは目を閉じた。
魔物と化したマニッシュの恫喝が胸を劈いた。
「撃てーーーーーーっ!!」
ライサンは引き金を引いた。
眩い青い光。
ライサンが放った弾丸は赤い装甲服を貫いた。
「何っ?!」
血が噴き出す。
マニッシュはよろめき、マントを引き剥がした。
轟々と音を立て、その体は足元から凍りついてゆく……。
R-FB弾――フリージン・ブルーの脅威。
その魔の光の前にレプタイルズは力を失い、なす術もなく、魂まで奪われてしまう。
六万五千年前、氷河が種族を絶滅の危機に晒したように――その呪われた石はレプタイルズを凍結させ、死に至らしめる……。
心も魂も凍りつき息絶える寸前に、マニッシュは悲しく呻いた。
「……愛していた……ライラ」
ハウル・スプンフル暗殺の為、ライトニングはオブジェの鎧の中に潜んでいた。
ライサンはこの部屋に入って直ぐ、ライトニングに念波で催眠術をかけていた。
マッド・マニッシュとの壮絶な戦いを予測していたからだ。
ライサンは術を解き、ライトニングを揺り起こす。
そしてアルバータとコリーナを介抱し、無事を確かめた。
台座に置かれたマニッシュの腕が最後の霊力でアルバータたちに襲いかかったが、それはライトニングが撃退した。
二人を抱きしめるライトニング。
参謀役のブロウと叔父ドリフティンはマニッシュの手に落ちたという。
尊い犠牲を決して無駄にはしない……ライトニングはそう誓った。
天窓から陽光が射し込む。
ライサンは母ライラの像に歩み寄り、そっと抱きしめた。
「……太陽が高く輝くまでに帰ってくると言っていたね……僕はずっと待っていたんだ」
涙が溢れて止まらない。
「寂しかった」
啜り泣き、悲痛な叫び。憂い。
そして彼は感じた――蘇ってくるその温もりを。
《――ライサン!――》
END
シャイニング・ハイ SHINNING HIGH 宝輪 鳳空 @howlin
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