【終章:Epilogue】

 翌日、言われていた通り昼頃にハイヤーが着くと、すぐに状況を説明し警察が呼ばれた。

 あさひとまよるを含め、全員が事情聴取され、逃走したヨルについては警察が捜査することとなり、事件はあさよる探偵事務所の手を離れたのだった。


 数週間後―――。

 「これって…。」

 まよるが見つけたのは事務所のポストに投函されていた差出人不明の洋封筒。見覚えのある印章がスタンプされた蝋で封がされている。

 あさひと一緒に中身を確かめようと事務所に戻ると、事件の際に事情聴取を担当した刑事が訪問していた。

 「あ、まよる、ちょうどよかった。」

 そうあさひが言うと刑事が警察手帳を見せつつ名乗る。

 「どうも、N県警捜査一課の犬吠埼です。」

 「あ、どうも、まよるワトソンです。覚えてますよ、珍しい名字の人だったなーって。」

 よくいわれます、と軽く笑いながら刑事が答える。

 「本日は事件についてお二人に追加でお聞きしたいことがありまして参りました。お時間よろしいでしょうか?」


 刑事を事務所の応接スペースに通し座ってもらう、事務員さんがそっとお茶を出すと、すみません、と刑事が丁寧にお礼を言う。

 「それで、お話というのは…?」

 「ああ、そうでした、皆さんが白夜モリアーティって呼ばれていた被害者の身元が分かったのですが、その件についてなんです。」

 ヨルに殺害された被害者の女性、白夜モリアーティと招待状では書かれていたがよく考えれば本名でない可能性も大いにあった。

 「はあ、でも私達どっちもあの人見たことなかったので知り合いとかじゃないと思うんですが…。」

 まよるが率直に答える。刑事は聞いているのかいないのかそのまま話を続ける。

 「…被害者は『猫崎ヨル』さんでした。」

 「「え?」」

 困惑する2人。

 「被害者の身元を確認した結果、亡くなられたのは『猫崎ヨル』さんで間違いないと判明しました。ですので、皆さんが『猫崎ヨル』と呼んでいた犯人について再度お話をお聞きしています。」

 

 猫崎ヨルが被害者で、それを殺したのは誰なのか、警察も犯人が解らず捜査は難航しているらしい。

 あさひとまよるも混乱している。じゃああの猫崎ヨルは誰だったのか。

 2人は知っていることを一通り話すと刑事は、ありがとうございます、と言い夏の日差しの中帰っていった。


 「あ、そうだ、あさひ、これが届いていたんだけど…。」

 まよるが洋封筒を差し出す。真ん中に十字、左上に三匹の獅子が配置された盾の印章のシーリングがされている。

 事件の後、気になって調査したところジェームズ・モリアーティ教授のダラム大学の校章であった。つまり、白夜モリアーティは名前の通りモリアーティ教授をオマージュした名前なのだろう。

 あさひが十徳ナイフでシーリングをパキ、と外し、中から便箋を取り出した。


『この度はゲームクリアおめでとうございます。素晴らしい頭脳を見せたお二人には、いずれまた面白いゲームがあればご招待させていただきます。 白夜モリアーティ』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あさよる探偵事務所の物語 ヴィオラの犬 @he_is_violist

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ