置いてけぼり
葬式には行かなかった。理由は色々あるけれど、僕には相応しくない場だったから、というのが一番かもしれない。別に悲しくない。別に苦しくない、別に切なくない、別に寂しくない、別に痛くない、別に辛くない。ただ起こるべくして起きた出来事だ。そう思っているから、行かなかった。後で後悔するかもしれないけれど、これが正解だと思う。死んだ子の年を数えるのは、いくらでも出来る。
その日の夜、先生から電話で僕以外のクラスメイトは全員参列したと聞いた。みんな悲しそうに泣いていたらしい。それを聞いて少し安心した。ちゃんと悲しんでくれる人たちがいて、本当によかった。僕が行かなくて正解だったかもしれない。だって、僕だけ泣いていなかったら怒られてしまうから。みんなから怒られる想像をしたらゾッとして、吐き気を催した。
僕と彼女は特別な関係じゃないけれど、無関係でもなかった。家が近いので、小学生の頃から知り合いだ。それだけの関係。二人で会話したことは何度かあるけれど、どんな話をしたかまるで覚えていない。一緒のクラスだったことは今年以外にもあった気がするし、なかった気もする。どんな人だったか語ろうとしても、どれも僕の捏造された記憶のように思えて、語ってはいけない気がする。
とにかく、彼女の葬式は無事に始まり、無事に悲しまれ、無事に終わったことは知っている。僕は彼女がどういう人物だったのか必死に思い出しながら、眠りについた。
葬式の翌日、僕はいつも通り登校した。空が今まで見てきた中で最も澄み渡っていて綺麗だった。少しだけ冷たい風も心地よい。学校まで歩くのが楽しくて仕方がなかった。校舎に紅葉の絨毯が出来ていた。それは夏の夕焼けのような色を発していて、ゴッホの描いた絵画の如く力強かった。何日も前からあったはずだけれど、僕はその日初めて存在に気がついた。その光景につい嘆息した。
教室に入ると、何人かに挨拶された。誰だか知らないけれどちゃんと返した。自分の席について授業の準備をしていたら、隣の子に話しかけられた。内容はよく覚えていないけれど、多分当たり障りのなくて他愛もない話だった気がする。ホームルームでは今日までの提出物を出すように、と念を押された。すでに出してあるので僕には関係ない。
授業は相変わらず将来の役に立たなそうなことを、できる限り薄くして冗長にした内容だった。しかし、僕は頭がよくないのでついて行くのに精一杯どころか、若干ついて行けてない。テストまでに一度集中して復習しなければと思ったが、今すぐにするほどのやる気はなかった。
お昼は名前のわからない人たちに誘われて、屋上で食べることになった。僕のお昼はコンビニで買ったお弁当だ。周りを見てみると、手作り弁当より若干コンビニ弁当のが多かった。僕と同じお弁当の人もいる。喋りながら食べるのは得意ではないので、完食するのに時間がかかった。これ美味しいよね、と言われたので、そうだねと返す。そのお弁当は味と匂いがなかった。
放課後、僕は窓から校庭を見渡す。運動部の生徒が一生懸命に活動をしていて、どこかキラキラと輝いていた。ひたすら自分の限界を乗り越えることに挑戦する陸上部、だらだらと喋りながらキャッチボールをする野球部、サッカー部がボールを追いかけている、声域の高い叫び声は女子テニス部からだろう。帰宅部の僕にとってそれらは眩しくて綺麗に思えた。目が潰れそうで、耳が腐りそうなほどに。
日常の光景がそこにはあった。
けれどその光景はひどく醜くて、壊してやりたいと思った。
断片的淡々短編集 真愛 凛 @my_dear
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