断片的淡々短編集

面接

「丁寧な自己紹介をありがとうございます。では次に、当社を志望した理由を教えてください」

　はい。私は常に正しい行いをしていたいと思っていまして、御社の善きを育てて悪しきを正すというスローガンに惹かれた次第です。

　また、学生時代にボランティアへ参加して地域の町おこしをした際に得た、現場に最も必要とされている事を汲み取って実行する能力を最大限発揮できる職場はここしかない、と思ったのも理由の一つです。

「素晴らしいですね。次の質問ですが、あなたの強みと弱みを教えてください」

　わかりました。まずは強みから述べますと、私は行動力が人一倍あります。自分にできる事は必ずやり遂げて、わからない事はすぐに聞き、間違っているなと思ったら修正する事を癖づけております。

　一方弱みですが、事前に教えていただかないと先走ってしまうことです。恥を忍んで正直に申し上げますと、強みである実行力が原因で、自己判断による行動をした結果失敗したことが何度かあります。なので、前もって禁止事項をご教示いただければ幸いです。

「差し支えなければ、失敗談をお話ししてもらってもよろしいでしょうか」

　かしこまりました。これは私が学生の頃に接客業のアルバイトをしていた時の話です。

　一つ上の先輩がある日、自分の代わりに出勤してくれないかと連絡してきました。私は何か急用が入ったのだろうと思い快く承諾し、その先輩の代わりに出勤しました。先輩のタイムカードを切り、先輩が入れた通りのシフト内で仕事をこなしただけです。

　しかし後日判明したのですが、その時先輩はトレーディングカードショップで強盗行為をしていて、私はアリバイ作りの片棒を担がされていたわけです。先輩はとある消費者金融に手を出していたらしく、その借金を返すために犯罪に手を染めたと後々聞きました。

　もちろん私はアルバイト先の店長に叱られ、警察や被害に遭った店舗に向けた書類を数日間にも渡って作成することになりました。自分の思慮の浅さが原因なのはよく理解しています。なので怒りや後悔などはありませんが、同じ轍を踏まないため、この失敗は心に深く刻んでおこうと誓いました。

「詳しく話をしていただきありがとうございます。次に、どのようなキャリアプランを描いているかをお願いします」

　はい。まずは御社のシステムの把握と、周りからの信頼を獲得するため、一年ほどは自己をあまり出さず、言われた事をそのままするような働き方をしたいと思っています。御社への理解を深めたのちに、今までの経験を活かした仕事をしていく所存です。先ほども申し上げた通り、私は正しい行いをしたいので、まずはその正義を知る必要があると思っています。

「今までの経験を活かした仕事とは、具体的に何でしょうか」

　例えば、学生に向けて違法な金額の借入をしているのを摘発することですね。知識や経験不足の若者を搾取の対象にするような会社は、一刻も早く滅びるべきだと思います。私は悪を絶対に許せません。

「最後に何か質問はありますか？」

　ありません。

「面接は以上で終了です。ありがとうございました」

　本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。

　御社に入社することができましたら、必ず大きな変化を起こしましょう。