雑記

【雑記】0番線

 はいはい、らっしゃいらっしゃい。……誰が来るんでしょうね。

 今回は旅行ではなく、いやある意味旅行かもしれませんが、どこかに乗りに行ったというものではありません。

 駅のホーム、皆さん一度は立ったことありますよね。

 さらに電車に乗っていると、乗り換えの案内とかで「○○行きは○○番線(のりば)から何時何分……」とか聞く人は聞くでしょう。慣れていたら聞く必要もないから、聞かない人が多いですけどね。

 今回は、それに深く関わるお話です。


 *****


 鉄道には「0番線」があるというのは、読者の皆様はご存知だろうか。

 0という数字は何となく不気味である。意味合いとしては「無」だし、読み方によっては「霊」とも重なる。

 知っている人も知らない人も、あるいは「見たことがある」という人もいるだろうから、鉄道における番線の概念について、簡単に説明しようと思う。

 先に言っておくが、これは全てが法令に基づくものではなく、あくまで一般常識から見たという考え方も混ざっているので、ご容赦願いたい。


 鉄道の番線番号は勿論「1」からつけるのが常識で、旧国鉄では駅長室に近いところから1番2番とふっていたという。駅長室があるのは大体駅舎の中であるから、これが最もスタンダードで分かりやすい。

 だが、中には例外も存在する。特に近年は、ホームから階段を昇ったところに改札などが存在する「橋上駅舎」というのが増えてきたため、駅長室から近いところという概念に当てはめると、端から順番という訳ではなくなり、紛らわしい。お客にとっても分かりにくいから迷惑である。

 そのため現在は「とりあえず端から順番にふる」という考え方の下、一端が最初の番号である1番線、もう一端が最後の番数をふっている、という風に考えれば大丈夫と思われる。そもそも現在は無人駅も増えてきているし、駅長がいるような駅は番線の数が多いターミナルが割合的に多い。駅自体の規模が大きいから、駅長室がどこにあるかを知っている一般客はあまりいないだろう。


 では「0番線」は如何にして生まれるのか? これは、鉄道網発展の歴史を紐解く必要がある。

 鉄道ができるのは重要度の高い順、所謂いわゆる「本線」と呼ばれる部類の路線が先である。そしてもう一つ、主要駅などを起点として本線から枝分かれするように分岐する路線があり、これは「支線」と呼ばれる。定義によって様々な分類があるけれど、ここでは大雑把にそうする。

 支線は本線に比べて輸送量が減ることがほとんどだから、本線ほどの車両を必要としない。つまり本線の連結両数では過剰輸送になるため、編成を短くした線内での折り返し列車が多いのである。

 しかし本線の駅から発着するからには、一定の時間居座る必要がある。特に折り返し列車では停車時間も長くなるから、その分だけ輸送量が多い本線の番線を一つ塞いでしまう。かといって、邪魔だから出ていけ、などと追い出す訳にもいかない。それでは本線から支線への乗り換えができなくなり、本末転倒である。

 では、本線を支障せずに支線の列車を発着させることは出来ないのだろうか?

 否、諦めるのはまだ早い。ないのなら無理やりにでも作ってしまえばいいのである。本線のホームの一部を削って線路を引き込み、そこを支線専用の発着線にすれば……。


 こうしてできるのが「切り欠きホーム」と呼ばれる有効ゆうこうちょう(停まれる列車の長さ)が短いホームのことである。支線にはもともと本線ほどの客はいないのだから、列車の長さが短い。それを逆手にとった方法といえる。

 特に最近は新幹線の開通などもあって、本線レベルの路線が凋落するのは珍しいことではなく、したがって本線列車の連結両数も少なくなる。よって本線の両数が制限されるといっても、それは限定的な影響に過ぎない。

 そして切り欠きホームはその経緯から、後から新設される場合がほとんどである。さらにホームの端にできるのだから、1番線より駅舎側だったり、3・4番線ホームの間だったりと、本線の番線番号を一つずつずらさなければならなくなる場合が生まれる。現在でも駅舎側から1、2、3……と番線をふっている駅も多いから、番号をずらすとなれば手間がかかる。出来ればずらしたくないから1の一つ前の番号を、という経緯で生まれるのが「0番線」というわけである。

 かといって切り欠きホームが全て0番線という訳ではない。例としてJR東日本の郡山こおりやま駅(福島県郡山市)があり、ここには水郡すいぐん線という茨城県の水戸みとから来るローカル線が発着するので、2・4番線の東京寄りに「3番線」として水郡線専用の切り欠きホームがある。以前は番号がなく「水郡ホーム」と呼ばれていたらしいが、元々設けられていた1番線の撤去もあって番号が振られた。


 話を戻そう。つまり0番線は「ホームの端にひっそりと存在する」「支線やローカル線が発着する」「列車の長さが短い」というのが典型例なので、急に旅情をそそられる。中にはJRの京都駅のような長い長い0番線もあるが、これは例外中の例外。各都道府県に1つ以上あるかどうかは分からないが、探せば意外とある。

 東京には無いのでは、と思う人がいるだろうが、実は23区内に隠れている。東京メトロ千代田線の綾瀬あやせ駅(東京都足立区)がそれで、ここには北綾瀬きたあやせ支線という車庫への路線を旅客化したような路線がある。最近になって一部は北千住方面から10両の直通電車が走るようになったが、現在も大半が綾瀬―北綾瀬を3両で行ったり来たりする列車のため、0番線が存在する。京成電鉄の日暮里駅も0番線があるが、これは京成の駅を改修した際にホームが一つ増え、JRと番号が被らないようにという配慮から付けられたものなので、どちらかというと例外だろう。

 近年は地方の過疎化が進んだことも災いして、支線そのものが廃止になってしまい0番線がなくなることもあり、例として国鉄湧網ゆうもう線(1987年廃止)の網走あばしり駅や、JR大社たいしゃ線(1990年廃止)の出雲いずも駅などが挙げられる。出雲市駅に至っては廃止後に駅が高架化されたため、当時の面影は全くない。


 この「0番線」のささやかさと儚さに興味を示すのは、どうやら私だけではないようである。私の手元には最近ハマった旅行漫画があり、単行本を買うほど夢中になっているのだが、その漫画のオマケには、北上きたかみ駅の0番線に注目する登場人物たちが描かれている。なかなか細かいところに目をつけていて、このエピソードは鉄道ファンの一人として気に入っている。

「トラックナンバーゼロ」もとい「0番線」。数字のうえでは何もないかのように見えるが、確かに存在するのである。


 *****


 さて、いかがだったでしょうか?

 皆さん、普段使う路線以外で、番線なんてあまり気にしませんよね。通り過ぎる駅なら特に。

 さて、今回紹介した0番線は、北は……どこだろう。まあ、興味があったら調べてみてください。

 ちなみに、ちなみに。私が最近ハマった漫画というのは、石坂ケンタさんの「ざつ旅 -That's Journy-」という漫画です。こちらも興味がありましたら是非(何を宣伝しとるねん)。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

旅人生 今井杞憂 @one-writer

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ