【訪問記】ラジオの公開収録を聞きに行き隊

 はいはい皆様こんにちは、お久しぶりです。

 ……え? お前のことなんか誰も覚えてねーよって?

 しょうがないですね。まあ忘れててもいいのですが、今回は四国への訪問記です。

 ラジオって皆さん聞きます? 聞きますよね(圧)。それの公開収録に行ってみようと思ったわけです。

 それでは、始まり始まり。



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 一通の往復はがきから旅が始まるとは、思いもしなかった。

「鉄旅音旅 出発進行 音で楽しむ鉄道旅」、通称:てつおと。NHKラジオで放送されている番組である。

 ラジオだからもちろん映像は入らない。音だけで鉄道を楽しむというなかなかニッチな番組である。お堅いお堅いと言われていたNHKもこういうことをするようになったのだな、と率直に思った。

 さてそんな「てつおと」だが、何やら公開収録が開かれるらしい。

 場所は愛媛県の宇和島。さすがに東京からでは遠い。が、行けるものならぜひ行きたい。コロナ禍もだんだん収まってきたことだし、この時期に出かけるのは許されることだと思われる。

 ただ、観覧は往復はがき送付のうえ、応募者多数の場合は抽選である。

 まあ当たらないだろう。倍率にもよるが、当たれ当たれと思っているとえてして当たらないのが世の常だ。当たらなかったらいつもの週末、当たれば喜び勇んで四国。どちらだって構わない。どうも脳が楽天的にできている。

 そんな軽い気持ちで申し込んだところ、どういう訳か当選通知が送られてきた。当たったからには行かねばなるまい。


 *****


 寝台特急〔サンライズ瀬戸・出雲〕は、東京を定刻21時50分に発車した。私が乗っているのは寝台券の要らない「ノビノビ座席」、つまり正式には座席なのだが、そんなことは構わず堂々と「『寝台』特急」を名のっている。

 だが、寝台特急と言いたくなるのも分かる。何しろ現在、日本で定期運転している夜行列車はこれだけなのだ。この二列車は恐らく定期運転をするものとして日本最後の寝台列車、並びに夜行特急列車となるだろう。コロナ禍と鉄道離れで青息吐息のJRに、定期運転するための新たな夜行列車など作れるはずがない。


 翌朝起きると、知らないところを走っている。時刻は6時過ぎだから、次の停車駅は6時27分着の岡山だが、岡山県に入ったかどうかも分からない。

 朝起きたら知らない土地。その景色を寝ぼけ眼で見つめる。ああ、遠くへ来たんだなと思う。夜行列車の旅情はこういうところにある。もっとも、旅情だけで採算がとれるほど経営は甘くない。

 岡山で〔サンライズ出雲〕を切り離し、一足先に発車した〔サンライズ瀬戸〕は瀬戸大橋を渡り、7時09分坂出さかいでに着いた。コンクリートのプラットホームを踏みしめ、四国を実感する。

 うどんでも食べようかと思ったが、下調べをしてきていない。もたもたするうちに発車時刻が近づき、結局コンビニでうどんを買うにとどまった。次に乗車するのは特急〔いしづち1号〕。これに終点の松山まで乗る。


 *****


 松山で〔宇和海9号〕に乗り換え、一気に宇和島へ向かう。本当なら海の眺めが良い伊予長浜の辺りを普通列車でのんびり行きたいのだが、今回は公開収録に行くのが目的なので、寄り道せずにいくほかない。

 伊予市を出ると振り子特急の本領発揮で、国鉄最後の開業区間である犬寄峠越えにさしかかる。だが峠越えといっても長大トンネルでぶち抜いているので、勾配がきつくならないようにはなっている。

 八幡浜を発車し法華津峠を越えると、右車窓に海が見える。これが列車名の由来になった宇和海で、愛媛県西部の海のうち、佐田岬半島から宇和島辺りまでの通称である。沖まで出ると豊後水道と呼ばれる。


 しかしながら、「宇和海」とは良い列車名だと思う。予讃線の特急列車といえば〔しおかぜ〕でこちらもシンプルで良いが、漢字三文字で地域の特性を表したような列車名もまた似合っている。JR東日本の「富士回遊」や小田急の「ふじさん」などというゴマすり列車名とは全くの別物だ。

 後の二例も昔から使われている由緒ある列車名なら異存はないが、富士山が世界文化遺産に登録された途端に変更した。前者は「ホリデー快速河口湖」を特急に格上げ、後者は朝霧高原からとられた歴史ある列車名「あさぎり」を、いとも簡単に捨てたのである。

 列車名とは文章であり記号ではない。その名前にもまた、線路や車両と同じように相応の歴史がある。日本の鉄道における列車愛称の歴史が始まってから九十余年、その役割はここまで落ちぶれてしまったのだろうか。


 *****


 遅れもなく宇和島に着けたので、まずはホッとする。

 駅前の蒸気機関車を見る暇もなく、まずは公開収録の会場である南予文化会館へ向かう。知らない土地だから、時間には余裕を見ておかねばならない。だが、それほど心配するほどのこともなく会場に着き、ゆうゆう公開収録に間に合った。

 出演者は野月貴弘・土屋礼央の両氏と、アイドルの方である。最後の一人を「アイドルの方」なんていう書き方をするとファンの方から怒られそうだが、私はアイドルに詳しくない。なんとかフォーティーエイトの何とかさんということしか分からない。しかし会場にはその種のファンもいるようだった。観覧者の中には宮城から来た人もいるという。

 収録中に流す「トレベル」企画(「トレベル」とはトレイン・トラベルの略語らしい)は、予土線の〔しまんトロッコ〕に乗車した音声だった。さすがに公開収録にちなんだものを用意している。地元の観覧者が多い中で北海道のものを流すわけにもいかないからだろうが、宇和島は辺鄙なところ(←失礼)だから、録音しに行くだけでも大変であろうことは察しがつく。


 収録は二週分を録るようで、会館には都合二時間ほどの滞在である。途中で鉄道唱歌の作詞者が宇和島出身という話題が出たときには、たくさん調べてきているんだなぁなどと思った。私は会館で聞くまで知らなかった。

 松山放送局の記者という方のお話も面白かった。何しろ閉店するからと聞き、国交省内にあるJTBの営業所まで出向いたというから、きっぷの蒐集熱は相当なものだ。

 旅行好きな父が官公庁に勤めていた関係もあり、私も「(交)国交省内発行」のきっぷは保管している。だが、四国に住みながら買いに行ったのは驚愕である。個人的に聞きたかったのが、「(交)霞が関発行」のきっぷを持っているのかということ。霞が関とは国交省内営業所に改称される前の営業所名で、これを持っている人はさすがにあまりいないと思われる。


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 土屋さんはじめスタッフの方々にも拍手を促され、そのたびに大きな拍手を繰り返し、収録が終わるころには手が痛くなっていた。

 夢うつつのうちに楽しい時間は過ぎ、収録が終わった。


 これから帰らねばならない。ギリギリに四国行きが決まったというのもあって、それほど日程に余裕が無いのだ。宇和島駅まで早足で歩き、特急〔宇和海22号〕松山行きに間に合った。

 さて、日程に余裕がないとは言ったが、帰路に使う列車は今夜の〔サンライズ瀬戸〕である。二泊連続で夜行などということは、現代日本であまり出来ることではない。これも貴重な機会だ。

 それはともかく、この上り〔サンライズ瀬戸〕は坂出を21時44分に出る。これに間に合うには松山を19時32分に出る特急〔いしづち102号〕に乗ればいい。さすれば宇和島発は18時08分で構わないのだが、私はやはり伊予長浜のほうを回って行きたいというのが大きかった。宇和島観光に後ろ髪を引かれたが、接続の良さという誘惑にあっさり負けた。


 土曜日の夕方にしては乗車率が良い〔宇和海22号〕は、自由席があらかた埋まったあたりで伊予大洲に着いた。伊予大洲は大洲城で有名なところであるが、内子方面と伊予長浜方面へのルートが分かれる要衝でもある。

 20分ほどの待ち時間で、伊予長浜経由の普通列車松山行きに乗り込む。時間が余ったからちょっと、という程度ではなかなか乗りにくいのがこの区間で、絶妙に時間がかかる。だが特急は内子を通るから、一日9往復の普通列車しかない。臨時特急〔伊予灘ものがたり〕はあくまで観光客専用列車だから、地元の需要を考えると走ってはいるほうだろう。


 伊予出石まではよくあるローカル線といった風情だが、やはり伊予長浜から景色が違う。伊予灘をすぐ近くに見ながら乗れる。欲を言えばボックスシートが良いが、松山地区の通勤通学需要とJR四国の財政状況を見れば、自治体の補助がない限りそんな改造はしてくれないことぐらいは分かる。

 くし下灘しもなだと青春18きっぷのポスターになった駅を連続で過ぎる。串は撮影スポットとして穴場だが、逆に下灘は有名になり過ぎてしまった感がある。ホームにいる、列車に乗らない見物客の多いこと! 駅員を配置して入場券代を取るべきではなかろうか。


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 松山に定刻で着いたのは19時前。お土産を適当に選んでいると、ちょこんと一つだけ駅弁が残っていた。松山に駅弁があるのは知っていたが、この時間では売り切れている可能性も大いにあったから、これは喜ぶべきだろう。もちろん手に入れた。

 これから乗る特急〔いしづち102号〕は19時32分発で、まだ入線していない。ふと発車表示を見ると「接続案内:坂出で東京行寝台特急『サンライズ瀬戸』」の表示が煌々とスクロールしている。愛媛県の駅で「東京」という案内が見られる。鉄道のネットワークもまだまだ捨てたものではない、と私は嬉しくなった。


 坂出には定刻に着き、発車していく〔いしづち〕を見送るや否やすぐに〔サンライズ瀬戸〕がやってきた。接続時間は4分で、こうしたところはよく考えられている。

 乗車してすぐ、瀬戸大橋を渡る。私は編成の中にある「ミニサロン」にいた。岡山を出てから野月貴弘さんとお話ができたのは、向こう数十年自慢できることだろうと勝手に思っている。



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 いかがでしたでしょうか。

 訪問記といっても移動のときのほうを多く書いているので、果たしてこれは訪問記なのか? と思った方もいるかもしれません。すみません(汗)。

 そうです、公開収録行かせてもらったんです。すごく楽しかったです(もう少し語彙力をつけろや)。

 まあ、普段スタジオでやっている収録を直に聞けるというのは本当に貴重な体験でした。ただ財布がね……うん。

 では、またどこかで。

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