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条約法条約に対する藍子の理解は、突出して優れたものであり、この条約に
勿論、藍子は、この講義から最上級の判定を受け単位を取得し、その他の授業に関しても落単することはなかった。
「ようやくこれで、再帰的なラヴも終わりだね」
「ちゃんと、することをしていたじゃない。進歩的に……」
藍子が、帳場に座って、来ないであろう客を待っている間、小太郎は、居間に続いている障子の前に椅子を持ってきて、棚から抜き取った本を読み
フランス文学の名作を集めた短篇集だった。無論、藍子は、この文庫本を彼が読み終えたら、代金を請求することに決めていた。しかしいままで、小太郎がそれを渋ることはなかった。
彼女の父親も母親も、適当な用事を
しかし、両親の交合を想像することは、あまりにもグロテスクだった。扇風機はゆっくりと首を振り、本棚の影にある帳場をいくらか涼しくしていたが、軒先に吊った風鈴は微動だにしなかった。休日だというのに、この半シャッター商店街を歩くひとは
「ノーパンで座ってなよ」
「いやよ。だれか来たらどうするの」
「だれも来ないって。じゃあ、俺が店先で見張っていてやるから、下半身は全部、露出してくれないか? 十分くらいでいいから。それでその後、藍子のをチェックさせてくれ」
藍子はこの指令に従うことはなかった。が、その魅力的な命令に
不思議と彼女は、小太郎のことを変態だと思うことはなかった。むしろ、純粋無垢な青年のように感じていた。慾求を直接的に要求することほど、汚れ無き子どもらしい態度はないではないか。藍子は
「汗をかいてきちゃったから」
「着がえるの?」
「ううん……少しだけ涼もうと思うの。扇風機の向きを固定していい?」
「よし、なら俺は店先の方へいてやろう。だれかが来たら、なにか合図を出してやるよ。なにがいい?」
下着を外す手を止めて、藍子はしばらく考えた。しかし、なんの名案も浮かんでくることはなかった。小太郎は皮肉な微笑を見せてから、身勝手に合言葉を取り決めた。
「ハーフナー・ヴァン・デ・ホン・エッゲンシュタイナー」
「なにそれ?」
「天才的な小説家だよ。俺はエッゲンシュタイナーの信奉者だからね。ここは本屋だし、小説家の名前を言うのは自然じゃないか」
藍子は下着を外すと、陽光の届かない帳場の下に隠して、汗の
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2024年6月29日 01:00
The "Mourning" Sun Rises. 紫鳥コウ @Smilitary
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