掌編小説・『バーゲンセール』
夢美瑠瑠
掌編小説・『バーゲンセール』
(これは2019年の「バーゲンの日」にアメブロに投稿したものです)
掌編小説・『バーゲンセール』
14度目の、「閉店前の在庫整理の大バーゲン!半期に一度のガレッジセール!」
が、終了して、惹句の矛盾に気づかない客が大勢訪れて、盛大に儲けた、雑貨スーパー「アース」の経営者の奈仁母・菜伊(なにも・ない)氏は、売上金の札束の山を前にして、何に使うべきか思案していた。これだけあれば、かなりまとまった用途に使用可能である。貯金をしても、今は利子など雀の涙、悪くするとマイナス金利とやらで貴重な持ち金を掠め取られる。有利な投資?、有利な使い道を見つけなければ、せっかくのお金が泣くのです。
「何かのチャリティに募金とかすれば、新聞に取り上げられて、店の宣伝になるし、おれの男も上がる。社会のためにもなるし、運が上がったり、周囲の空気がよくなるという効果もあるかもしれない。とかく経営者はがめつく蓄財のみに励むけれど、これからの斜陽の日本はもっと皆で助け合って、共存共栄を図るべきだ。社会の空気をよくするにはすべからく、まず経営者たちがこうあるべきだ、そういう意気込みをおれが率先垂範してやろうではないか…」そうして奈仁母氏は、アルコール・アノニマスというアルコール依存症者を救済する、自助団体にポンと4000万円を寄付した。
寄付の「ご利益」?はすぐ現れてきた。新聞にこの美談が載ったので、どっさりと匿名の花束が届いた。年頃の娘が三人いて、一人は反抗期でグレ気味だったが、山ほど美しいバラの花束を貰った父親を見直して、優しくなった。一人は嫁き遅れていたが、取材に来た新聞記者に一目惚れされて、めでたく結婚した。「地元の優良企業トップテン」の第三位に選出されて、奈仁母氏は、一挙に名士となった。さらに奈仁母氏は、皆から推されて、商工会の枢要な役職に就くことになった。これは彼のかねてからの念願だった…
従業員たちも、社長を改めて尊敬し直して、「社長のためなら」と、これまでの倍は精出して働くようになった。「店を綺麗にしよう」という機運が高まって、店舗はピカピカになり、活気のある従業員たちのおかげで、店の雰囲気もドンドン明るくなった。
どんどん売り上げが伸びて、次の「閉店準備セール」の後には、店舗を拡大しようかというほどに、沢山金が残った…
「ううむ…これこそ松下幸之助ばりの経営の極意か…PHPみたいなのでも作れそうだな?今度は手元に転がせる資金が10億円ほどある…どうしようか?」考えた挙句に、ユニセフの、貧困児童を救うという運動を展開している部署に、5億円を寄付した。あと5億円で姉弟店舗を作り、それはオーガニックな食品ばかりを販売するというロハスな思想で展開することにした。彼はこれが「地球のために必要」と、思ったのだ。
ご利益がたくさんたくさんリターンしてきて、彼はとうとう皆に支持されて衆議院議員となり、「次代を担うホープ」と目されて、その発言や行動が注目される、日本の重要人物となった。
スーパーのビジネスも絶好調で、今や全国に店舗網が広がり、利益は天井知らずだった。奈仁母氏は、「スーパーの王様」という異名をとった。
彼は自分をここまでにしてくれた「閉店前の在庫一掃の大バーゲン」と、「寄付による社会への還元」をそれからも繰り広げて、縁起のいいその大盤振る舞いが好循環を繰り返して、社会的名声もどんどん上昇して、挙句の果てには、奈仁母氏は、数年後にはとうとう内閣総理大臣に選出された。
… …
今日、かれは国連で「地球の未来と人類の幸福のためにできること」というテーマで、英語でスピーチをした…彼は国境を越えた統一世界連合「大国際連邦国家『アース』」というのを構想して、提唱している。その初代大統領には当然彼が就任するはずなのである…
<了>
掌編小説・『バーゲンセール』 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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