真相解明?

 唯依は俺なんかと平然と付き合える人間である。だから怒りも長続きはしなかった。説教は30分足らずで雑談となった。


「それでねー部活のみんながさー、私抜きで遊びに行ったって写真が送られてきてさ」

「ああ、見た」

「もう怒った! ってところでお見舞いに来てくれるし、みんなで物を選んでたって言われちゃうからさぁ!」

「感情のやり場に困ったんだな」

「だから瞬に当たるね! ごめん!」


 枕が飛んできた。いきなりすぎて顔面にストレート。

 俺とすれ違った時の、あの表情――サプライズで行く予定が俺の密告で崩れるのを危惧したようだ。

 こっちを取り巻く現状は俺含め悪意にまみれているが、無邪気な唯依の周囲には悪意のない世界が広がっている。俺は穿った目で見ていたようだ。


「ねー枕嗅いでないでさー、もっと話聞いてよー」

「そんな趣味はない。汗臭いだろ普通」

「そういうこと言ってるから彼女できないんだよ……」

「いるが」


 唯依は固まった。思い出したか。


「……ねえ。本当なの? ちょっと話してみてよ。もしかして何か騙されてない?」

「さっき隣にいただろ」

「瞬しか見えてなかったから」

「少なくともデートはした。出掛けて買い物したり。あと毎日登下校に付き合ってもらってる。あと俺の問題について話したり――って、ああそうだ! おい、あんな姿駅で見られたんだぞ! 距離を置いた意味がなくなる!」


 目を丸くした後、顔が真っ赤に変わった。目が泳いでいる。


「一応言っておくが。それと彼女の件に関係はないぞ」

「……ごめん」

「今度から気を付けてくれよ」


 唯依は何度も頷いた。さすがに反省してくれたらしい。話題もないし、今なら安全に帰れるだろう。


「じゃあ俺もそろそろ帰るから。あまり長居はしたくない」

「え?」

「もしあいつを待たせてたりしたら悪いだろ。そんな殊勝な性格ではないとは思うがな」


 さっと確認したが、メッセージは届いていなかった。待っているなら『どこそこにいます』なんて言うはずで、つまり逃げ帰ったわけだ。

 唯依は取ってつけたように窓の外を見た。


「もう少し暗くなってからの方がいいんじゃない? ほら、人目に付き辛いでしょ」

「日は沈んでる。すぐに真っ暗になるさ」

「それからでもいいじゃん」

「何でそこまで俺を引き留めるんだ?」


 返事はなかった。


「なあ、何かあったのか?」

「愚痴を聞いてほしいだけ」

「嘘だな。いつもの唯依なら”なに人の心配してんの?”とか言うだろ」


 また黙ってしまった。うるさくない唯依は偽物だ。これは俺が好きな唯依じゃない。ほんのわずかに嫌いになった。誰しもある程度の好悪の変化、要は誤差である。

 それが随分増幅されて伝わったらしく、唯依は目に涙を溜めた。


「情緒不安定すぎるだろ。なんかあったのか? 彼氏に振られたとか?」


 ピキッと音が聞こえた。間違いなく幻聴だが疑いなく聴覚がとらえた。

 これはまずい。助けになってやりたいが無理だ。唯依の相談とくれば相手はかなりのハイスペック男子に違いない。

 それに唯依の恋愛は知りたくない。嫉妬ではなく、見えないところでやってほしい。原理は母親が不倫している現場を見たくないのと同じだ。むしろ実母への感情が薄いのが、唯依に転嫁されたのかもしれない。

 いずれにせよ深入りは全員が不幸になる。


「……失恋の相談なら俺は聞いてやれん、小依先輩を頼れ。あの人変だけど優しいから何でも聞いてくれるし、多分恋の話は大好きだ。じゃあな!」


 固まったままの唯依を置いて、俺はとっとと階段を駆け下りた。

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