脱線先
上小路との付き合いは対唯依用であり、対世間用の今までとは訳が違う。そのため見せつける必要はないのだが、恋人としての実態がなければ唯依に早晩見抜かれるだろう。
そういうわけでUターンして戻ってきた。上小路が校内に侵入できたのはザル警備と小依先輩の知人と言う免罪符のおかげだ。唯依は遅れて部活に行ったはず。
ノックすると小依先輩は部屋に入れてくれた。きょとんとした顔をしていたが、とりあえずお茶を出して席に着くよう勧められた。
一服してから、彼女は怪訝な目線を向けた。
「それでどうしたんだい?」
「唯依の動機を知るために、俺たち付き合うことになりました」
「ふんふん……なるほど。何をしたいのかさっぱりわからないけど、私の助力が欲しいんだね」
「さすがは小依さんですね。唯依さんとは世論対策や瞬さん対策で話し合うと思うのですが、その際に私の存在やお付き合いの関係を伝えてほしい。アピールして欲しいんです」
今日の上小路は落ち着いていた。むしろ小依先輩の方が落ち着きがないように見える。憔悴とまではいかないが、心配だ。別れてからの1、2時間で何かあったのだろうか。
「……ふむ。とりあえず要望はわかったよ。けど、どうせなら私も一口噛ませてほしい。瞬君にはわかると思うけど、今”私と立花さん”で瞬君が揺れている構図だよね」「そうなりますね」
「それを”立花さんと上小路さん”にしたらどうだろう。注目度は否応なく下がる――いや、はっきりと言おうか。普通の高校生の恋愛になるわけだ」
「なるほど。じゃあ上小路との関係を見せつければ、こっちの問題にも対処できると」
「構いませんよ、お付き合いしてくれる人に心当たりはないので。あと瞬さん。夜刀、ね」
「俺だけ呼び捨てを強要されるのかよ」
「耳元で囁いてほしいのですね。わかりました。そういう変態的御趣味があるのなら、付き合ってさしあげるのもやぶさかでは――」
「誰もそんなことは言ってない」
壊れているのは彼女だけか。俺もおかしくなっているかもしれない。小依先輩がこめかみを抑えた。
「立花さんには言っておくよ。また何かあったら遠慮なくおいで」
「ありがとうございます。では」
「私たちに頼まれてるって点とか、作戦とかは黙っておいてくださいね!」
「隠すのかい? ……うーん、わかったよ」
違和感があった。今、小依先輩は何かを企んだ。恐らく好奇心に火がついた。そうすれば、ダダ甘小依先輩から科学者波止場小依になってしまう。
「……上小路。これ、一筋縄ではいかないかもな」
「随分今更言うんですね。あと、夜刀です」
校舎の中では人目を憚り、外に出た瞬間に見せびらかして歩いた。手をつなぎ、肩と肩が触れ合うほどの距離だった。良い匂いも確かにしたし、柔らかさも伝わってきた。
しかし、なぜだか胸が高鳴らなかった。自分でも不思議なくらいだったが、結局原因はわからなかった。
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