証拠写真付きの噂は真実である

 立花唯依は俺にとっては同い年の幼馴染であり、上小路にとっても友人である。性格は豪胆であり繊細、無謀にして慎重、誰とでも親しく勇気と希望に溢れている。

 要するに俺のプラスを全部吸い上げた存在だ。多分彼女のマイナスは俺が引き取ってしまったのだろう。嘆かわしい限りだ。


 そんなことを吐き出すと、小依先輩は麺を一緒に呑み込んだ。


「なるほど。ところで、その立花さんは知ってるのかい? 君の境遇を」

「そりゃもちろん。クラスは違いますけどね」

「……あれ? うちの人なんだ?」

「ええ、まあ。なんかそうなりました」


 俺はそこそこ頭が良い。本物の進学校と自称進学校の中間地点にいる。一方の唯依は勉強はからっきしだったが、無理やり勉強を叩きこんだ。

 結果教師と同じくらい賢くなって、同じ高校に行く羽目になった。


「ふむ。まあ、そういうことなら良いだろう。瞬君にとっては良くないけど」

「どうしました?」

「計画に変更はないってことさ。甘やかして君の精神を回復させる。立花さんが状況を知って放置しているなら関係もないし」

「あー……いや、好きで放置してくれてるわけじゃないんですけどね」

「おや?」

「”唯依に庇われている”ってだけで気に入らない奴もいるみたいで」


 唯依のフォローによって状況は余計悪化した。その時には関係が破綻しかかったが、現在はある程度修復されつつある。

 ところで当然の帰結として、こういう感想を抱いた。


「そのうち小依先輩との関係でも問題になりそうですね」

「困るね。何か解決策を考えておこう」


 それは無理だ。生徒を全滅させるか、虐めが解消されなくてはならない。だがそんなことは原理的に不可能である。前者も後者もやる気がないからである。彼らの虐めに屈して己を変えることは受け入れがたく、そもそも何したって無駄だろうとも思っている。


「何かいい案が思いついたら言ってくださいね」

「ああ、相談させてもらうよ」


 それを口に出さないだけの社会性が、とうとう俺にも身についていた。


 店を出て夜風に当たって電車に乗って帰宅する。上小路は廃屋でガラクタに埋もれて眠っていたので、一筆書いて頭の上に被せて置いた。それでも起きないのだから大したものである。


 ところで先程から、ずっと視線を感じる。これはもしや、ついに俺の脳が破壊されたのか。いかにも詳しそうな小依先輩に尋ねると、不思議そうな顔をされた。


「普通に会話できてるじゃないか」

「しかし、明らかに見られています」

「私と一緒にいるからじゃないかな? 自分で言うのもなんだけど、人の耳目を集めると思うよ、私は」


 ……よくよく考えてみればその通りである。何を今更言っているのだろう。俺は馬鹿だ。やめやめ、と言って帰りの新幹線に乗り込んだ。


 今にして思うと、こうして自分の考えを馬鹿だと切り捨てた、これが一番の馬鹿であった。久々の朝のニュースで己の顔が映った時には、もう血まで青くなるくらいに顔が青々とした。

 俺は有名人となった。それも悪い方向に! 唯依からの怒涛の着信を無視しつつ、学校に向けて走り出した。

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