問題はなかった

 上小路はつけ込んだ。頼まれると断れない小依先輩の隙に入り込んだ。今の俺は従者のようなもので、主人が決めたなら逆らえない。反対に反対を重ねたが上小路を友達と言ってしまったのは俺自身だし、上小路は連絡先が交換されている事実をこれ以上なく利用した。それで小依先輩の頬が膨らんだのは一見の価値がある光景だった。


「ところで、結局なんで瞬さんと小依さんはこっち来たんですか?」

「学会モドキみたいなものがあってね」

「の、警護というか荷物持ち」

「なるほど! つまり旅行に来たんですね!」


 誰も否定しなかった。こんなので大丈夫だろうか。


 翌日、小依先輩は破壊神になった。科学はわからないが、胡散臭い登壇者の珍妙な謎理論が1つ1つ丁寧に打ち砕かれていく。その光景は見ていて痛快だったが、守る側としては恐ろしい限りである。1日中暴れた後の帰路で、彼女は心底楽しそうに笑った。


「いやぁ、気分が良いね」

「小依先輩にもそういうとこあるんですね。ちょっと意外でした」

「私だって聖人君子じゃないからね。我慢ならないこともあるのさ。だいたい、半分くらい詐欺師じゃないか。あれは」


 ふんと鼻を鳴らした。どうやら相当怒っているらしい。確かに真っ当に研究している彼女からすれば邪魔な存在だろうが、それにしたって異常に見えた。

 が、それに触れる勇気はなかった。


「あぁ瞬君。この後時間はあるかい?」

「拉致同然に連れて来ておいてよく言いますね」

「いいからいいから」

「まあ暇ですけど」

「じゃあこの後観光でもどうかな。もう夕方だけど、遊んで帰るくらいならできるはずだよ」

「……本音は?」

「本音だけど。せっかく2人で来たんだから遊ぼう。たまには学生らしいこともしないと損だよ」


 強引に押し切られ、市街地を散策することになった。誰かと並んで歩くのは慣れていないが、それは彼女も同じらしい。お互いに距離感が掴めないまま、無駄に周囲の視線を気にしながら、妙な緊張感を漂わせて歩いていた。

 ところで、これはひょっとしてデートと言う奴ではなかろうか。緊急事態を告げる警鐘が頭の中で鳴り響いた。

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