不穏?

 唯依を校門外の少し目立たないあたりで待ち構えていた。しかし現れたのは、金髪の奇天烈な女だった。モデル体型だが些か痩せすぎている。日光を反射した髪よりも瞳がギラギラと輝いていた。その点では、どこか小依先輩に似ている。

 彼女はこちらを見ると満面の笑みを浮かべた。


「やあやあ! どうもこんばんは!」

「……おはようございます」


 とりあえず挨拶を返したが、当然こんな知り合いはいない。ただこの声、聞き覚えがある。


「よよっ、私を忘れたのですね? 先程熱く唯依さんについて語り合った仲ではありませんか」

「唯依の友達の?」

「ワタクシ、上小路夜刀かみこうじやとと申します! よろしく!」

「あー、うん。ところで上小路さん、その恰好は?」


 彼女は私服だった。残暑のこの時期に何が楽しいのか白い長袖セーターを着ている。下はジーンズ、もちろん足首までしっかり隠れている。手袋とマフラーがないのが意外なくらいだが、白いニット帽は被っていた。

 季節外れだが、一番の問題は高校に制服で来ていないことだ。答えはあっさり帰ってきた。


「私、高校生じゃないので。17歳ですけどね! のっといんえでゅ……なんでしたっけね?」

「ニートか。なら高校に何の用だ」

「瞬さんとは利害も一致させられそうですし、是非ともお友達になりたいなぁと思いまして。それにほら私、唯依さんにお世話になったので。そのよしみって奴ですよ」

「……友達ぃ?」


 利害を一致させる友達とは何だろうか。あまりに胡散臭いが、かといって唯依と友達なのは間違いないだろう。唯依が認めるなら多分、悪い人間でもないはず。


「わかった。じゃあ友達だ」

「よろしくお願いしますね? 瞬さん?」


 スマホを渡すよう言われた。不審に思いはしたが渡したところ、とてつもない速度で入力を済ませ、気づいた時には上小路の名が連絡先に追加されていた。


「プロか何かか」

「ひょ? あ、唯依さんの匂いがする。じゃあ怒られたくないですし、私もそろそろお暇します。唯依さんには私のこと黙っといてくださいね! さらば!」

「はあ……」


 上小路は路地裏に消えるのを見送ると、間髪入れずに唯依が現れた。


「出迎えご苦労さまー。で、何してんのこんなとこで」

「唯依を待ってただけだが?」

「え、ほんとだったの? 嬉しい。でも昨日のは聞くからね」

「別に機嫌取りに適当なこと言ったわけじゃないぞ」


 小依先輩と関係があること、彼女の研究室で眠っていたことを伝えた。甘やかし云々に関してだけは伏せてある。

 唯依は頬を膨らませた。物凄くわざとらしかった。


「むうー」

「なんだよ」

「なんか面白そうだし私も呼んでよ」

「嫌だよ面倒くさい。てか陸上部は良いのか、今日って朝練ある日じゃなかったか?」

「朝練より瞬の方が大事だから探してあげてたんだけどー? 何その言い方ぁー」

「嘘つけ、サボりたかっただけだろ」

「ほんとだよー」


 他愛ないやり取りに、思わず声を漏らしてしまった。


「なんか懐かしいな」

「んー? まあ新しい女の子見つけちゃったならしょうがないよ。ましてあの波止場先輩じゃぁねー、瞬も男の子だもんねー」

「人聞きの悪いことを言うな。あそうだ、そっちは大丈夫だったか?」

「あ、うん。言いくるめておいたよいい感じに」

「ありがとう。助かった」

「でも今度からは連絡してよ?」

「そもそも泊まる予定なかったんだよ」


 起こされなかった話までしたところで、ちょうど時間が来た。彼女と別れてからは普通の日常だ。取られる物もない今は小康状態だった。


 放課後、いつも通り小依先輩の部屋を訪ねた。ノックしても返事がないので、断りを入れてからノブを捻った。傍らに立った。それでも反応がない。おずおずと声を発した。


「……小依先輩?」

「なーに! 今忙しいんだけど……と、なんだ瞬君か。ごめん、ちょっと冷静さを欠いてしまった」


 謝りながらも、彼女はモニターを睨みつけていた。只ならぬものを感じながら、ひとまず平謝りされるのだった。

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