信頼
小依先輩は寝ころんだまま顔だけ上げた。
「私は君を信じているんだ。そうしてもいいと思ったし、必要でもあったから」
「自分の身の危険を冒してまで優しくする必要、あります?」
「やだな、これでも相手くらい選んでいる。君なら大丈夫だろうっていう確信があった」
「根拠は?」
「秘密にするね。ところで君、何か隠していないかい? 心を閉ざしているっていうかさ?」
話の逸らし方が下手すぎるが、乗ってあげよう。
心を閉ざすというのは難しいが、確かに言っていないことはある。家族との関係やいじめの詳細など、核心的な話題には触れていない。
だがそれはお互い様だ。拒絶の顔をして頷くと、彼女は少し残念そうに笑った。
「まあ、私が無防備になんにも気にしていなければ……自然と君の心に入り込めるかなって思ったのさ」
「言って良かったんですか?」
「君、その方が好きだろう? 私も同じだよ。影であれこれするのは好きじゃない」
本気だ。声音は変わらない。表情もいつも通り、普通の顔だ。なのに圧を感じた。真実に違いないと思わせる力があった。
慌てて彼女は笑った。取り繕ったように、あるいは照れたようだった。
「納得したかな?」
「優しすぎる理由は?」
「価値観の相違としか言えないかなあ。甘やかすって、これくらいの感覚だから」
嘘くさいが反論はできなかった。
再び話を逸らしたいのか、わざとらしく声を上げた。
「怪我の状態次第なんだが、今度買い物に付き合ってくれないかな」
「買い物?」
「この部屋に常備してある食べ物その他が尽きたからね。私1人だと運べる量に限界がある」
「どんな量ですか」
「お米とか」
納得した。荷物を担いで5階のこの部屋まで上がるのは厳しい。
「わかりました。じゃあ付き合いますけど、1つ聞かせてください。まさかここに住んでるんですか?」
「うん? いやぁ、そんなはずないだろう。ただお腹が空いた時に食べられないのは嫌だからね、色々な物を備蓄しているんだ」
ちょっと苦しいだろう。が、天才肌な人間というのは得てして変人も兼ねている。妙なところに拘るのは当然かもしれない。
彼女が変人なのは間違いないし。何せ俺を助けるくらいだ。
「じゃあさっそく行きましょうか」
「うん? 何言ってるんだ、今度って言っただろう」
「時間的にもまだ全然余裕ありますよ?」
日が沈みかけてはいるが、まだ夜とは言えない。彼女は頭を抱えた。
「怪我してるのを忘れたのかい? 私としてはできることならば駅まで送ってあげたいくらいだぞ。治った時にお願いするさ」
俺の都合に合わせてくれるようだ。それについて異議を申し立ててもダメそうだ。
「というわけで、私は買い出しに行ってくる。その間待っているか、帰るか決めてほしい。鍵のこともあるからね。ちなみに、遅くても19時までには戻って来る」
「それなら帰らせてもらいます。暇ですし」
「そか、じゃあまた明日。ちゃんと来るんだよ?」
軽く手を上げて応じ、貰った金で無事帰るのだった。
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