絶望的なお手紙と知りたがりの天才様

 歩きながら、よくよく考えたら凄いことだと気づいた。思ったままに口にすると、彼女は頷いた。


「気紛れに作った紙飛行機が偶然誰かに拾われて、たまたま読んで場所もわかる。すごいことですよね」

「ああ。頭に紙飛行機が刺さった時は何事かと思ったよ」

「……すみませんでした」

「どういう経緯でああなったのか、良ければ教えてもらえるかな?」


 何となく、では許してもらえそうにない。彼女の目が雄弁に語っていた。まあ、話して減る物でもないか。少し恥ずかしいが、中身を読まれた時点で大同小異だろう。人の少ない夕方の廊下で、人に聞かれたくない話を始めた。


 あの紙飛行機は、元々ノートの切れ端だった。中には『絶望の類義語は人生であるに違いない。蜘蛛の糸が下りてきても、俺はそれに縋りつく力があるだろうか』と書いた。要するに暗い文章だ。


「精神的に参ってしまってノートに吐き出すのはわかるよ」


 共感が飛んでくる。波止場小依が落ち込んでいるのは想像できないが、本で読んだのかもしれない。無言の圧を感じて、続けた。


 飛行機にしたのは、自分で決断できなかったからだ。自殺すら考えていながら、自分で覚悟を決められない。そこで順調に飛んだなら、落ちなかった飛行機の代わりに俺が窓から落ちようと思った。

 前からは何の反応もなかった。先導される身としては、表情1つ見えないのは不安になってくる。そもそも俺はどこへ向かっているのだろう。


「飛行機はすぐに墜落したね。よかったよかった」


 それを俺は見ていない。

 窓を開け、飛ばそうと身を軽く乗り出した際に熱気を感じた。その不愉快さで目を細めてしまった。だが視界内に飛行機はなかったので、墜落したものと決めつけ引っ込んだ。もしかすると、本能が止めたのかもしれない。


「まあ、こんなものです」

「うん……そっか。ねえ、1つ聞いてもいいかい」

「どうぞ」

「私が教室に顔を出した時、物凄く嫌そうな表情をしていたよね」

「わざとじゃないんです」

「謝らなくていい、別に怒ってるわけじゃない。ただ理由を知りたいだけなんだ」


 なら紙飛行機の後まで話すべきだろう。長くなりますよ、と前置きした。彼女は今更だと笑った。

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