Episode:23 Phoenix
竜が羽ばたき、鳥が舞う。鳥の体からは炎が迸り、その炎が竜の身を焼く。竜の身はことごとく猛毒、そして細菌を有しており、ただ竜の前に立つだけで、それらは鳥の身を、確かに蝕んでいるようだった。
ゼロは、竜にその牙を届かせるため、自らその身を空に投げ出した。炎によって鳥の姿を再現したゼロは、確かに不死鳥の神々しさを持っていた。
竜は、その身からとめどなくあふれ出すその毒を、自らの力として昇華する。ただ流れに任せるでなく、しかし流れに逆らうでなく、自ら新しい流れを生み出そうとした。その試みが成ったとき、竜は、真なる意味で竜となった。
地に足をつけて生活していた生物が、その姿を鳥に似せたところで、果たして飛翔することが叶うのであろうか。今この時、ゼロという個人に対して問うならば、可能だったと言わざるを得ないだろう。類稀なる運動センス、そしてフェニクスという種族の本能。あらゆる要因が、ゼロを空にあらしめた。しかしながら、それはただ飛べること。それは竜に対し対等に戦えることではない。空中での戦闘はおろか、ただ飛ぶことにすら、全神経を使っているのだから。
竜の息吹は、次第に濃密な毒を含み始めた。もはや、
今、この時、初めて空を飛ぶ手段を得て、竜と同じ舞台に上った者。生まれて初めて対等なる舞台での勝負を経験し、急速にその実力を上昇させた竜。勝負というのであれば、もはやその結果は決定的だった。
ゼロは力尽きるまで戦った。そして、その手は竜には届かなかった。
三日三晩続いた勝負の結果を端的に表すのであれば、この二言で事足りる。しかし、仮に事戦いを目撃したものがいるならば、その語りは一晩かけても終わらないだろう。その者の人生観を決定的に変えるだけの戦いが、そこでは行われていたのだから。
ゼロの敗因は、精神的および肉体的疲労である。本来、生物として不条理なほどの不死性を有するフェニクスは、
竜の住処。それを知る者はおらず、ましてや見たものがいるはずもない。人の住む大陸とは別の大陸にあるソレは、もはや人の身でたどり着くのは不可能である。その大陸では、真なる巨人をはじめとして食物連鎖の頂点に位置するもののみが生を許される。その大陸では、空も、海も、そのすべてが安全とは程遠い。その大陸は、はるか昔。おとぎ話にのみ存在した伝説の大陸。古人曰く、
「悪い子は、空から竜が飛んできて、死の大陸に連れていかれるわよ。」
と。
この世界のどの場所よりも死がありふれた領域。どの時代の人間が、どの国の人間が、その大陸を発見したとしても、畏怖を込めて死の大陸と呼ぶのだろう。ゆえに、いまだ観測されていないにも関わらず、その大陸は死の大陸なのである。
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