Episode:20 Surprise attack
俺たちは、母の町から一番近い町に向かうには少々それた道を進んでいる。理由としては、その町への道が、王都の方向からずれているため、迂回する羽目になることが一つ。迂回するほどの魅力を感じなかったというのが付随する二つ目。これだけで十分なのだが、その町は野盗を黙認した町であるため、俺のことを知っていて、面倒ごとを起すものがいる可能性が三つ。これだけ揃えば、むしろ他の目れても訪れるか悩むレベルだ。
夜。久々に戦闘訓練を行う。まずは二人同時だ。わかっていたことではあるが、二人同時だと、攻めあぐねる、どころか攻撃を喰らうまでになっていた。特にモナの音撃が厄介だ。モナの奇襲に近い攻撃を何とかかわし、ローズの四刀流の隙を見つけて懐に入り込んでも、衝撃によって作られた一瞬の隙のうちに距離をとられる。ひそかにアイコンタクトをしているようで、備えをしていない俺よりも良い体勢で音撃を喰らうのだから、無差別攻撃ではあってもそこには確かに差異が存在する。
モナの攻撃は厄介だ。非常に。が、忘れてはならないのはローズが俺の正面に立っているからこそその攻撃は真価を発揮しているということ。ローズの技量が、俺でも油断できないほどに成長しているからこそ、その合間に挟まれる奇襲によってローズは優勢を保つ。モナの奇襲のタイミングも俺の予想外のタイミングばかりで、まさしく奇襲と呼べる攻撃だった。
こうして、基本的にはローズが俺と切り結び、その隙を窺うようにしてモナが攻撃を挟む。という戦法だったわけだが、単純な戦法で、かつしっかりと前提となる実力を持っているからこそ、非常にやりにくかった。もちろん炎化を用いた不死性を利用したごり押しであれば、俺に軍配が上がるであろうことは間違いはない。無いのだが、衝拳は炎化してもある程度ダメージが来るし、戦闘中に全身の炎化はできない。全身全霊をもってしても多少手強そうだ。掛け値なしにそう思えるだけの実力を持っていると、そう再確認できた。
辺境都市より内側、つまり国の領土では、魔獣の数、質、その両方が極端に減る。なぜか。それは単純に、四方向から冒険者が来るからである。ゆえに、辺境都市の外側でも他国に隣接している場合はそれだけ魔獣は減る。まあその場合はその国との戦争に備え、結局要塞のような都市になるのだが。つまり何が言いたいかと言えば、エンデールを離れ、国の内側へと歩を進めてからは魔獣への警戒は薄くなっていた。ただでさえ、そして不帰の森でさえ、カリストのおかげで安全だったのだ。仕方のないことなのだろう。しかしこの夜。久々に本気で魔獣に相対した俺は、こう思っていた。やはり何事にも絶対などないのだ、と。
「グガァッツ!!?!」
張り裂けそうな痛みととみに、意識が覚醒する。慌てて患部を炎化し、周囲を確認。それと並行して、
「起きろ!敵襲だ!」
二人にも声をかける。カリストの警戒網を抜けてきた?見たところ周囲に敵影はないが…。
「痛っ!」
再びの激痛が足に襲い掛かり、ようやく敵の正体を確認する。ソレは小さく、黒く、そして強靭な顎を持った蟻だった。
「
「なんだ、そいつはっ!?」
「戦士団級の魔獣です!非常に硬い外骨格と強靭な顎、小さな体による隠密性と神経と、筋肉に作用する猛毒。そのすべてが凶悪で、歴史上では、この蟻の出現により放棄された都市もあると。」
「なるほど。だが、それならば…!」
再び意識外に逃亡されてはたまらない。認識できているうちに…踏みつけと同時に衝拳。最後の足掻きとばかりに噛みついてくるが、その痛みに耐えきると、蟻は絶命した。足を炎化しながら、
「危なかったな。初めに俺以外がかまれていたら、炎化による神経毒の無効化はできなかっただろう。寝てはいたが、警戒はしていたつもりだったんだがな…。ただ、起きていても気づけるかどうかは半々といったとことか。現にカリストも気づかなかったようだし。」
「そうですね。もう少し周囲を警戒する技術の習得に向けて努力すべきでしょうか…?」
「そうだな。だが、こういった技術は、一朝一夕では身につかんだろう。師事する人でもいれば変わるかもしれんが。」
「ならば、次の街ではそういった技能を持つ人を探してみるのか?」
「それもいいかもしれない。まあ、
「ええ。しかし、目が冴えてしまいましたね。」
「ああ。私もだ。」
「そうか。そろそろ日も昇るだろう。日の出とともに出発しようか。」
「はい。」「うむ。」
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