Episode:18 Engage

「あんた、例の援軍だろ?」


 行軍が始まり数時間後。初めは遠巻きに見ていた人のうちの数人が、ついに話しかけてきた。


「おう。あんたも突撃部隊か?」

「ああ。あんたと会うのは二度目なんだが…。覚えているか?」

「ん?……ああ!あの時の農民か?」

「おう。通称埋伏部隊。農民として生活しながら、いざというときは戦士となる幻の部隊だ。かっこよく言えばな。ま、そういうわけで、あの時もおっかない集団が来たもんだから、軽く接触したのさ。」

「なるほど…。確かに合理的な部隊だ。脅威の排除が可能な農民集団か。おっかないのはそっちだろう。」

「ちげえねえ。」


 埋伏部隊とやらと仲を深めつつ、足を進める。ふと、気になったので聞いてみた。


「なんであんた達はカタリーナに従うんだ?領主でもないし、富豪でもないのに。」

「カタリーナ様の一族は、いうなればみんなの母さんなのさ。俺たちは親に戦闘技術を学び、カタリーナ様のお母様に教育を受けたんだ。ほかの町じゃ、農民は簡単な計算も、自分の名前を書くことも、手紙を読むことすらままならないと聞く。俺らがそうでないのは、みんなカタリーナ様の一族のおかげなのさ。」

「なるほどな。教育の恩に報いている、と。」

「ああ。だが、あくまでもそれは俺らの意思さ。現に俺らの同期には、この町を離れて冒険者やってるやつもいる。ま、そいつらも緊急事態だって手紙でも出せばすっ飛んでくるだろうがな。」

「なるほど。つまりは人徳のなせる業ということか。それを数世代、10数世代にわたって継続しているというのは、奇跡の所業だな。」

「ああ。この町の別名、というか別名のほうが有名なんだが、母の町の由来は、みんなの母さんがいるからさ。」

「なるほど。それだけの影響力を持つなら、領主に掛け合うのも納得できるし、慕ってくれる者の為に討伐隊を指揮するのも納得できる。ま、カタリーナが凄くて良いやつってことだな。」

「おう。」


 町中から慕われ、愛され、信頼され、頼られる。そこには確かに幸福が存在し、充足感が存在し、権力が存在する。しかしながら、そこにはきっと幾ばくかの束縛があり、重圧があるだろう。そんなことを思い、カタリーナを見る。成人して間もないであろうその身に、町中からの信頼を受け、笑みを見せる。その姿は、尊敬に値するものだった。


 そうして徐々に、ほかのものとも打ち解けていき、こちらから話しかけられるほどには親密な関係になった。そうして今日、ついに俺たちは移動を終え、ベースキャンプ予定地にたどり着いた。


「皆、まずは脱落者なくここまで行軍できたことを誇らしく思う。今日はここで休息とする。特に突撃部隊の者は、警戒は他者に任せ、十分な休息をとるように。警戒は、事前に決められた隊が主動になって行うこと。殲滅作戦の開始は明日の昼過ぎを予定している。退路を断つための部隊もすでに配置を完了している。では、解散!」


 話が終わると、各々が休息をとり始める。その間に、バックアップを行う部隊が野営準備を開始。移動中と何ら変わらぬ一連の流れの中に、一つ変わったことがあるとするならば、明日に向けた気合だろう。作戦開始までほぼ丸1日あるが、戦士たちの瞳は、すでに戦いを想起させた。


 別動隊が発見され、急遽作戦が開始される……。などということは無く、しっかりと休息をとった突撃部隊は、太陽を頭上に受け、カタリーナの一声をもって、同時に疾走した。


「これより、野盗殲滅作戦を開始する。周囲の包囲はすでに成った。ここにいる者たちは、ただ目についたものの首をとり、命を刈り取ることのみを考えればよい。では、皆の者、出撃せよ!!!」


 野盗たちの住処は、池のそばの平地である。ベースキャンプとなっている森からは少し距離がある。こちらに気づいた瞬間、散り散りになって逃げる野盗どもは、一見襲撃に驚き、統率を失ったようにも見える。しかしこう逃げられると、この人数の猛者を用意しても多少逃がしてしまうかもしれない。きっと何度か襲撃を受け、そのたびにこうして逃げ、また別の地で拠点を築いたのだろう。ここから少し離れたところにあるとなり町に集合すれば、また最低限の人数がそろうのだから。しかし今回に限ればそれは悪手。すでに遠巻きに包囲を固めた俺たちに対して、その逃げ方は戦力の分散以外の何物でもない。

 カリストに乗り、ほかの誰よりも早く野盗に追いついた俺は、その速度のまま突撃し、襲い掛かっていくカリストから飛び降り、仕留めそこなったものを狩る。池が背になるように突撃した俺たちに対して、逃走経路は右か左かに限られる。俺たちが向かわなかったもう一方でも、モナたちが次々に野盗の命を奪っていた。そこに少しばかり遅れて突撃部隊の奴らが襲い掛かる。敵はすでに総崩れのため、リーダーは優先的に始末すべきもの、つまり逃げ足が速かったり、数人を道連れにしようとするほどには戦意の残った者を指示しているだけだった。


 何人かには逃げられてしまったが、きっと包囲部隊がなんとかしてくれるだろう。こうして、俺史上初めての集団作戦は、成功と言えるだけの戦果を出した。つまり、敵の殲滅という第一目標の達成。および死者ゼロという副次目標の達成である。血の匂いに若干酔いつつ、俺たちはベースキャンプへ帰還した。


 


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