Episode:9 Dance in the forest
「今日から、ここをベースキャンプに訓練をしようと思う。水場は近くにあるが、物資は最低限しかない。体力の消耗を抑えること、武器の損耗を抑えること、いろいろ学ぶことがあるだろう。午前は対人戦闘訓練。飯を食ったら森に入って三食分の獲物を狩る。時間が余れば魔術の練習だ。疑問は?」
「ありません。」
「同じく。」
「今日はもう昼だ。これから森に入る。俺はカリストと二人で行くから、モナとローズも二人で行け。カリストクラスの魔獣が出なければ大丈夫だろうし、出ても逃げるくらいの実力はあるはずだ。」
「「はい。」」
「では、行動開始。」
久々の不帰の森だ…。さっそく狼の群れが襲ってきた。一匹一匹がエンデールの周りでは最強クラスの強さを持つ。それが十数匹、知恵ある指揮官に率いられてようやく生存できる。それが不帰の森だ。
狼は倒せたが、こいつらの肉はおいしくない。一度食ったからわかる。とりあえず何往復かして、死体をベースキャンプに置いてきた。ハイエナされたらたまらんから、カリストはここでお留守番。最近、カリストはお留守番要員になってしまっている。どうにかしなければ…。
その後、蛇、イノシシを倒し、ベースキャンプに戻る。モナたちも狼型の群れと戦ったらしい。狼の死体が増えていた。
「狼の魔獣は、私たちが倒したのが
「へえ。買取素材で、長持ちするものは?」
「皮はなめせば長持ちしますが、できる人がいないので…。そうなると、牙、爪、コアになると思います。」
「やはりか。じゃあ、さっさとはぎ取ってしまおう。夕食は猪だ。こいつは焼くだけで相当うまいんだ。」
剥ぎ取り中、口がある、歩く植物みたいなやつが襲ってきた。モナいわく、
「悩んでいるなら、話をするとまとまるかもしれないぞ?」
「ん?話を聞いてくれるのか。そうだな…。刀を触れた部分だけ消せばいいのか…?というのが今の考えなのだが、刀を消すなんてできるか?と思ってな。できるなら敵をすべて消滅できそうだし…。」
「…そうだな。今の話を聞いて、俺が思いついたアイデアは、逆に魔力で刀を創る、とかかな。ちゃんと刀の構造、素材を把握していないと使い物になる刀は作れないだろうが、成功したら魔力に戻せば消せるだろ?」
「なるほど…。そうか。その方向性のほうが実現できそうだな。それでいってみようと思う。」
「そうか。力になれてよかった。」
「ああ。ありがとう!」
その後、焚火を囲んで、モナの歌を聴くことになった。声を取り戻してからずっと、ひそかに練習していたらしい。まだ、魔力を上手く使えはしないが、一応本人は納得できるところまで戻ったらしい。
~私はあなたに歌をもらった。一度なくした宝物。あなたはそれを見つけてくれた。あなたとの日々はきっと永遠ではないけれど、今はただ、あなたと共に。
あなたにはじめて会った時、私はあなたに父を感じた。あなたに初めて触れたとき、私はあなたに母を感じた。あなたの声を聴くたびに、私はまだ見ぬ我が子を感じた。
あなたの喜びが私の喜び。私の命はあなたの未来。いずれ分かたれるその日まで、私のこの身はあなたのそばで。いずれ分かたれたそのあとも、私の心はあなたと共に。~
……。感動した。心が震えた。気高く、美しく、そしてはかない歌声だった。もし、俺が男なら、なるほど確かに、嫉妬に狂ってしまうかもしれない。かつてモナをさらったどこかの令嬢を思わず擁護してしまうほどの歌声。歌詞は、俺とのことをイメージしたのだろうか。そうであったらうれしいな。
「素晴らしかった。世界に散らばる語彙をかき集めても表現できないだろう。そんな歌声だった。」
「ああ。女の私も惚れそうになったからな。」
「モナは歌姫だな。」
「うふふ。ありがとうございます。」
興奮して眠れなくなってしまったので、しばらく話をする。主にモナをほめる話になってしまうが。モナは始終照れ臭そうにしていた。
朝、残りの猪を食べる。そのあとは訓練だ。カリストは昼には戻って来いよと言って、森に行かせた。
二人と訓練する。二人同時に相手をすると、炎化を使わなければ対処が難しいほどの実力になっている。二人とも衝拳が使えるので、それには気を付ける。衝拳は魔力を震わせる技なので、一部を炎化してもダメージが来るからだ。
訓練を続けると、二人の動きもよくなっていく。最後のほうは、俺も有効な攻撃を繰り出せなくなっていた。
二人は目に見えて動きがよくなっていくので、俺も楽しい。二人も成長を実感しているようで、時折笑みを浮かべていた。訓練に使う時間を多くしたほうがいいか…?明日からは、午前に森に入ろうかな。
午後は森へ。俺も二人も、特に苦戦するようなことはなかった。今日の夜も、モナの歌を聞きたい。この調子だと、毎晩モナの歌を聴くことになりそうだ。
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