Episode:4 Become a human being

 門はすんなりと通れた。大きな熊、カリストを見ても表情を変えないところを見ると、従魔は大型魔獣も多いらしい。ただ、あの顔はカリストを国難級魔獣とは思っていなさそう。そういう顔をされると、ついつい驚かせたくなってしまうが…。我慢。我慢だ。門番にはフィルズが何かを見せていた。きっと領主家の印のようなものがあるのだろう。ロックたちは領主の家まで一応の護衛任務があるらしいので、俺はひとまず先に冒険者組合に行こう。


 カリストを伴って街を歩く。商店、宿、各種組合に食事処。それらが秩序をなくし、立ち並ぶ。一方で、視界の奥に見える住宅街は整然として、秩序をもって作られたことを感じさせた。冒険者組合はすぐに見えてきた。カリストは、外で待っておいてもらうとして。よし。行くか。


 組合の中は意外に小綺麗だった。受付らしきところは……。新規登録はあそこか。空いているな。


「登録したい。」

「わかりました。では、名前、得意技能を教えていただきます。」

「得意技能とは?」

「対人戦闘、対魔獣戦闘、索敵などですね。魔術が使える、従魔がいる場合はそちらも。もちろん隠したい場合は隠していただいても構いませんが、こちらが実力を詳しく把握できていれば、より適切な依頼を斡旋できます。」

「なるほど。じゃあ俺は、対人、対魔獣。従魔ありだな。」

「従魔の種類はわかりますか?」

血濡れ熊ブラッディベアらしい。」

「へ?」

「だから、血濡れ熊ブラッディベアだって。」

「……失礼ですが、本当ですか?」

「聞いた話だからなぁ。俺も確かめたいくらいだ。今外にいるから、確認してくれるか?」

「少々お待ちください。……リーさん!ちょっと来てください!……ごにょごにょごにょ…。はい。今確認に向かわせました。」

「ありがと。じゃあ、あとは戦闘力テストかな?」

「はい。建物裏手にある訓練場に二時間後に来てください。」

「了解。じゃあ、二時間後に。」


 表に出ると、リーさんと呼ばれていたおじさんがカリストを調べていた。カリストにはここで待機するように伝えるとして、俺は…どうしよう?


 しばらく待っていると、ロックたちが来た。このまま組合で買取を行うらしい。ついていくことにした。


「ロック~。ついて行っていいか?」

「おう。半分はお前のものだという契約だからな。好きにすればいい。」


 四人で買取カウンターに向かう。大きなものは、裏手からすでに運び込んでいるらしい。賢い。ロックたちが小さいものを置いていっているので、俺も集めていたコアを出す。


「それは?」

「お前らに会う前にとったやつ。」

「ならば、これは別で買い取ってもらうか。」

「いや、こいつも五割分けでいいよ。もともと俺は四分の一でもよかったんだし。」

「まあお前がいいならそれでいいが。」


 二十分ほど待つと、買取が終わった。俺の取り分は500万ゴルドだった。二か月以上命がけの生活をする金額としては妥当…なのか?まあいいか。あと一時間くらいある。生活必需品を買い、今日の分の宿をとろう。


 街の中心に向かって歩き、目に留まった店に入る。古着を買い、雑貨を買い、宿をとる。その後、目に入った武器・防具屋に入った。


「いらっしゃい。何がご入用で?」

「燃えない服が欲しい。」

「火炎耐性があれば良いんだね?他の要望は?」

「優先順位でいえば、次は動きやすさ。その次が長く使えること。防御力はそこまで重視しない。」

「へえ。珍しいね。まあ、それならちょうどいいのがあるよ。うちのお抱え洋裁師に作らせたものなんだけどね。素材の長所を活かすんだと、それしか言わないからねえあいつは。その結果、作る防具はいつもピンキリさ。それでこの服とズボンだけどねえ。これは火炎蜥蜴サラマンダーの皮で作られたのさ。おかげで火への耐性はすさまじい。しかし火炎蜥蜴サラマンダーの変わってのはとっても薄くてねえ。それを使うならば防御力なんて二の次よなんて調子でさあ。これ買ってくれるなら安くしとくよ。」

「買った。いくらだ?」

「100万…と言いたいが、80万にしとこう。これからもごひいきに。」

「ありがとう。それとこの服作った人に伝えといてほしい。そういう考え方は好きだ。」

「毎度~」


 あわせて100万ほど使ってしまった。無駄遣いではない。決して。あと三十分。街でも見て回ろうか。街をぶらつく。ある看板が目に入った。【ホーネット奴隷商】。テストが終わったら、行ってみるか。


 組合に戻る。体感だが、遅れてはいないはず。たまに店先に見える時計を見ていたからな。


「おっ!お前さんが新人かい?俺は試験官のミコライオス、ランクA だ。」

「ゼロです。よろしく。」

「おう。試験内容は俺との勝負だ。互いに相手を死に至らしめない範囲で何でもあり。最善を期すが、最悪死ぬこともある試験だ。覚悟を持って臨め。」

「死ぬ覚悟なんて、カリストとやりあったあの日から、ずっと持ってる。さあ、やろう。」

「いい目だ。」


 お互い向き合う。ミコライオスは先手を譲るらしい。剣を構えてこちらを見ている。ならばこちらから行こう。六割ほどの速度で駆ける。ミコライオスは剣を用いて間合いに入らせないようにしてくる。やはり上手い。ロックと訓練を繰り返していたから、よくわかる。しかし、この剣はだめだ。おそらく訓練用の件なのだろうが…。その剣じゃ俺の手刀は防げないだろう。試験では武器を壊しても請求はされないらしい。俺に向かって振り下ろされた剣を、そのまま手刀で叩き切った。


「なっ!?」


 そのまま一気に間合いを詰め……、そのまま衝拳を叩き込んだ。人に食らわせても問題ないダメージには抑えたから、きっと大丈夫だろう。…きっと。こうして俺は、対人、対魔獣ランクAになった。ちなみに、やっぱりカリストは、血濡れ熊ブラッディベアだった。

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