Episode:3 Journey
「あのぉ。ゼロさん。昨日から気になっていたんですけど、その熊ちゃんって、
「おいおい。そりゃさすがにないだろ。国難級だぞ?」
「いや、でもでも、特徴があまりにも聞いていた通りなので…。」
「俺も詳しいことは知らないが…。まあ確かにカリストは強かったな。二週間近く戦い続けたわけだし。」
「はぁ?!二週間?!嘘だろ?」
「まあ、信じられない気持ちもわかる。信じてもらおうとは思わんさ。ただ、カリストは強い。それは間違いない。多分結構な達人でもなければ傷すらつけられんだろうよ。」
「そうですか…。となるとやはり、
「そうか…。国難級の中でも耐久性能の高い魔獣にダメージを通せる技も気になる。一度見せてくれ。」
「いいぞ。しかし、昨日と比べてずいぶんフレンドリーになったな。なんでだ?」
「あいつが受け入れると決めたんだ。ならば俺はもう何も言わん。どちらにせよ俺らはお前を取り押さえることはできんからな。」
「そか。なら、ちょっとそこに立ってろ。」
「ん?」
困惑しているようだが、まあいいか。腰を落とし、左拳を腹に当てる。そしてできる限り小さく、内臓に衝撃を通した。
「ぐぁっ!」
「大丈夫っ?!」
「ああ。しかし、これは……。胃を内側から殴られたような感じだ。なるほど。これならば、確かに倒せるかもしれん。」
「今のが一番小さい攻撃だな。あとは手刀と蹴りが有効だった。」
「強いとは思っていたが、ここまでとは…。正直予想以上だ。しかしこれほどの男が味方とは、心強い限りだ。」
「認めてくれたようでうれしいよ。認められたついでに聞きたいことがあるんだが…。」
「ん?なんだ?」
「名前はなんていうんだ?」
「あれ?言ってなかったか?」
「ああ。」
「すまん。俺がリーダーのロック。女のほうがリリ―。あっちの兄貴っぽいのがフラムスだ。そして雇い主がフィルズ・フォン・エンデールだ。」
「なるほどなるほど。じゃあ改めてよろしく。ロック隊長。」
「よせやい。俺より強いやつに隊長といわれると、むず痒くて仕方ねえ。」
「了解。」
一行は不帰の森へ進む。カリストの影響か。襲ってくる魔獣は少ない。襲ってくるのは力の差すら理解できない雑魚と、結構な力を持った集団だ。まあ、現実的脅威となるような敵は今のところいない。襲ってくるだけ懐が温まるので、どんどん来いといった気分だ。しかし、ロックたちの話によると、やはりここらで出る魔獣より脅威度の大きい魔獣が出るようになっているらしい。少し警戒するか。
夜には、一緒に火を囲み、飯を食うくらいには仲良くなれた。飯の前には、ロックと対人訓練をする。俺は対人戦の経験を積む。ロックは格上との戦闘方法を身に着けたいらしい。まあ、美しさもへったくれもない戦いをすれば、確実に俺が勝てるだろう。しかし、それで勝てるのは格下だけだ。俺よりも強いやつはきっといる。そいつが善いやつだとは限らない以上、対人戦闘の妙は知っておきたい。
一週間が過ぎるころには、フィルズとも親しげに話せるようになっていた。フィルズは、堅苦しい喋り方をすると貴族らしい威厳が出るが、素は年齢通りの子供だ。十四、五くらいか?ロックが守ってやりたくなる気持ちもわかる。初めて会ったのが、こいつらでよかった。ロックと、リリーと、フラムスと、フィルズと。みんなと話すたびに、その気持ちは強くなった。
ひと月ほどたって、ようやく不帰の森にたどり着いた。やはり馬車だと時間がかかった。しかし変わってないなぁ。この森は。
「おいおい。すげえ魔素を感じるぞ…。ゼロは、こんな森でよく生きられたな。」
「ああ。俺が目覚めたのは三か月ほど前か?そのころ、大きな雷が落ちたんだとは思うが…大きな火事があったんだ。多分その影響でこの森から魔獣が逃げたんだろう。」
「ふむ。なるほど。ならば時間をかければ魔獣の分布は元に戻るだろう。ゼロ、ありがと。」
「おう。」
「よし、もういいだろう。帰ろう。我らの街へ。」
「「「おう!」」」
「おーーー!」
来た道を帰る。帰路、強力な魔獣に遭遇したり、盗賊に襲われたり、味方が重傷を負ったり…。そんなハプニングは一切なく。進むことひと月半。この二か月で、常識や知識はあらかた知れた。街に着いたら、魔術を習ってみたい。もしかしたら炎化もごまかせるかもしれない。カリストに関しては、従魔という制度があるらしいので、おそらく問題はないとのこと。ただ、身体能力を少し抑える首輪をつけるのだとか。カリストの長所は圧倒的防御力なので、そこまで問題にはならないと思う。まだ見ぬ都市に胸を躍らせ、ようやく塀に囲まれた、要塞のような辺境都市、エンデールの防御壁をその視野にとらえた。
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