「風さらいの丘」

低迷アクション

第1話

 「ワシ等は、風襲(ふうしゅ)と言っておった。とにかく風の強い日、あの丘で一夜を過ごしてはならん。例え、猟場に近い山の入口だとしてもだ。どうしてもと言う時は、備えをする。まぁ、それも、ワシ等にとっては当たり前の事…ただ、やったから、無事とは保証できん。昔、猟が盛んだった頃は、ようく、死んだもんじゃよ」


村役場職員の“G”は、担当している案件の事後処理について、元猟師の“老人”に

話を聞いていた。以下はその内容である。


「アンタの紹介したモン、そうか…警察は事故と?そうだろうな、

昔と同じだ。何?原因は強風で足を滑らせて…?


あんな平坦な地形で、酔っ払ってなければ、崖から落ちるか?

地元のモンなら、わかるだろう。勿論、警告はした。ただ、あれは頑固じゃったからな」


Gが紹介した大学院生は、山間部に残る奇祭や風習を調査していた。

その関係で“風さらい”の噂を聞き、老人と会見した。


「流石は学者の卵、山の地形や環境を調べて、強風や人的要因は関係ないと

言っとったよ。どうしても丘で一晩過ごすと言って聞かんから、備えをつけてやった」


一夜が明け、老人の家に来た院生は興奮していた。


「サーモ何とか?よくわからんが…


特殊なカメラで丘全体を撮ったら、一瞬だけ映ったそうじゃ。自分達に向かって、

空から下がった、大きくて長い蔓、管のようなモノがな。


“今までに発見されていない、自然現象、もしかしたら、生き物?…”


そんな事を言っていたな。全く…


映像を見たかって?見ておらんよ。理由がわからない?

どうして、今の若いモンや学者連中は全て知りたがる?

先人から伝わる言い伝えや風習を、そのままにしておけない?


理解出来ん。挙句に、奴さんはもう一度行くと言った。

今度は本格的な調査をすると言ってな。


止めるワシの声は、聞いておらんかった」


院生は機材と人員を用意した。原因究明のため、老人の備えは

不要と伝えてきた。


その結果…


「院生とその仲間は転落死…機材は、崖下で壊れて見つかったか…


ワシ等の頃も、あの丘を暴こうとした者がいた…同じじゃ…皆死んだよ…

あれはそのままにしといた方がええんじゃ」


話を聞いたGは老人に質問する。彼は事故の夜、院生達と丘にいた。

先に眠った彼は、朝になって異変に気づき、通報した。


何故?自分だけが助かったのか?その疑問に、老人は彼の服を見つめ、

少し鼻をヒクつかせた後、こう言った。


「お前さん、犬を飼っておるじゃろう?」…(終)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「風さらいの丘」 低迷アクション @0516001a

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る