閑話 小国連合会議

 ヴァロワ王国が属している小国連合の、年に一度の会議が開催されている。最近の議題はもっぱら魔物の森に関することだ。

 それも当たり前で、小国連合に属する国は大小様々三十を超える国があるが、その中で半数以上が魔物の森に接し、そうでなくとも一国を挟めばすぐそこに脅威が迫っている国がほとんどなのだ。したがって皆で団結しつつ、魔物の森の脅威に対処をしようと概ね意見は一致している。


 しかし多くの国が集まればそうは上手くいかないもので、今回の会議でも一つの街しかない小さな国の王が馬鹿な発言をしている。


「皆さん、我らは魔物の森と長らく対峙してきました。我らが抱える戦力は数は少ないが質は高い。小国連合が力を合わせれば、ラースラシア王国に勝利することも叶いましょうぞ!」


 愚王という名にこれほど相応しい王はいないという肥えた醜い男は、自分の発言に浸っているのかぐへぐへと気持ちの悪い笑い声を上げている。


 そんな愚王の様子を見る他の王達の視線は冷ややかだ。しかしそんな視線にも愚王は気付かないようで、皆が賛同すると思い込んだまま話を続ける。


「我が国は先日、隣国の援助に魔物の森への遠征部隊を出したのです。そこで数匹の魔物の討伐に成功しております! しかもその中の一体は巨大な熊でした。あれは噂に聞く凶悪だというマッスルベアに違いありません! そんな魔物も討伐できる我が国の騎士団の力があれば、魔物の森を駆逐することも、他国を侵略することも容易いでしょう!」


 この愚王が誇っているマッスルベアの討伐だが、真相は少し違う。実はこの愚王が治める国の騎士団は、手負のマッスルベアにちょうど鉢合わせたのだ。マッスルベアはファイヤーリザードに攻撃を受け、瀕死の状態で騎士団と遭遇した。


 そんなマッスルベアにこの国の騎士団は、多くの死傷者を出して討伐に成功した。誰がどう聞いても誇れるようなことではないのだが、都合の良いことしか聞こえないこの愚王にとっては、我が国の騎士団がマッスルベアを討伐した。そんな誇れる戦果だと信じ込んでいる。


 本当に何故このような者が王になれたのか……世襲というのも考えものだ。


「小国連合がこの大陸を統一するのです! 大陸統一の夢をともに叶えましょうぞ!」


 ――そして統一を叶えた暁には、私が小国群の王族を全員殺して大陸の王となるのだ!


 この愚王の筋書きは一万人が聞いたら一万人が無理だと答えるものなのだが、なぜかこの愚王はこれを実現できると信じ込んでいる。

 自分の部下を信じられる良い王なのか……いや、そうではないだろう。自国の力を正確に測れない迷惑な王だ。


「エスクデ王、使徒様の存在はどうするのだ?」


 皆が呆れた表情を浮かべて反論することさえも面倒だと思っていた中、口を開く者がいた。ヴァロワ王国の国王代理として会議に出席している、フェリシアーノ・ヴァロワだ。


「使徒様? あんなのは眉唾物の話だろう?」

「いや、そうではない。私は実際に使徒様にお会いし、その畏怖の念すら感じるお力を拝見した。使徒様は実在している。さらにミシュリーヌ様のお声を拝聴する栄誉にも賜った。お二方は、特に使徒様はラースラシア王国で大公の地位を持つ貴族でもある。貴殿はそんなお二人に敵対するのか?」


 フェリシアーノのその言葉を聞いて、レオンやミシュリーヌのことをあまりよく知らなかった他国の王達が一気にざわついた。


「フェリシアーノ殿、それは誠か?」

「もちろんだ。今回はミシュリーヌ教と使徒様のことを広めるために、この会議にやって来たのだからな」


 それからフェリシアーノがラースラシア王国の使節団が来た時の話や、ミシュリーヌ教の話、レオンの能力の話を知っている限り全て話すと、他国の王達は今すぐにでもミシュリーヌ教を国教にしようと側近と話し始める。


 ミシュリーヌはヴァロワ王国の神域にもたまに顔を出して神託をしているので、すでにヴァロワ王国でも熱狂的な信者が多く存在しているのだ。それによって国の情勢は今までにないほど安定している。


「エクスデ王、先ほどの発言は撤回された方がよろしいかと」


 全てを話し終えたフェリシアーノが愚王に視線を戻すと、愚王は顔を真っ赤に染めて怒りの形相を浮かべていた。


 自分の思い通りにならないことがよほど悔しいのだろう。損得も考えられないとは、つくづく王に向いていない男だ。


「そんなもの、ラースラシア王国に騙されているのではないか!? ラースラシア王国は我らに戦争を仕掛けてくるつもりなのだ!」


 そんな愚王の発言には全員が呆れた表情を浮かべ、それから愚王はいないものとして会議は進んだ。小国連合のこれからの指針は、ミシュリーヌ教を国教としてミシュリーヌ様と使徒様を信仰し、魔物の森を抑えきれなくなった時はヴァロワ王国を通じてラースラシア王国に助力を願うというものだ。


 皆はこれからの未来に希望が見えて、明るい表情で会議室を後にした。




ーエクスデ王視点ー


「腑抜けすぎる! 皆が皆、ラースラシア王国に騙されおって!」


 何がミシュリーヌ様だ、何が使徒様だ。この世界の神はエーデン様だというのに何を言っているのか。ミシュリーヌなどという邪神は私が滅ぼしてくれる!


「あいつらがあんなに腑抜けだとは思わなかった……もう良い、小国連合など抜けてくれるわ!」


 まずはラースラシア王国ではなく小国連合の支配が先だな。隣の国から順に攻め入り、兵力を奪いながら侵攻して小国連合を私が統一してやろう。

 そしてその後にラースラシア王国だ。ラースラシア王国を併合したらもう大陸は統一したようなもの。他の国など相手にならん。


「ふははははっ、楽しくなってきたな」


 数年後に私が大陸の王となっている未来を思い浮かべ、楽しい気分で酒を口にした。




〜お知らせ〜

「転生したら平民でした。〜生活水準に耐えられないので貴族を目指します〜3」

本日発売となりました!!


皆様のおかげで書籍3巻を発売することができ、本当に本当に感謝しております。書籍をご購入してくださっている皆様、ありがとうございます!


3巻はweb版と大筋こそ変えていませんが、展開などはより面白くなるようにかなり改稿しておりますので、web版が既読の方にも楽しんでいただけます。

王立学校ではweb版にはいないキャラが登場したり、ミシュリーヌ様が大活躍したり、番外編ではロニー視点のお話があったりと盛りだくさんの内容となっております。

お手に取っていただけたら嬉しいです!!


まだ1巻と2巻がお手元にないという方がいらっしゃいましたら、この機会にまとめて楽しんでいただけたらと思います。年末年始のお供にぜひ✨


それから書籍3巻の発売を記念して、近況ノートの方にSSを載せてあります。よろしければ覗いてみてください。


https://kakuyomu.jp/users/aoi_misa/news/16817330651219373068


では長くなりましたが、この辺で失礼させていただきます。いつもありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。


蒼井美紗

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る