第439話 カレー作成
大公家の食堂が開店してから数日後。
俺は母さんと父さんと共に家族専用の厨房に立っていた。もちろんティノも一緒だ。
「レオン、今日は何をするの?」
「今日は新しい料理を開発したいと思ってるんだ。その名も……カレー!」
俺が拳を振り上げてそう宣言すると、皆はカレーの美味しさを知らないので不思議な表情で首を傾げた。
「それはどういう料理なんだい?」
「タンドリーチキンってあったでしょ? あんな感じの料理だよ。野菜や肉を煮込んでたくさんの香辛料で味付けするんだ」
「それは美味しそうですね」
ティノはタンドリーチキンを気に入っていたので、俺の言葉を聞いて途端に瞳を輝かせた。
「まずタンドリーチキンに使われてる香辛料が……これで全部かな」
ヴァロワ王国で聞いたタンドリーチキンに使うらしい一般的な香辛料を、全てアイテムボックスから取り出す。これだけでかなりの量だ。これにそれぞれアレンジとしていくつも香辛料を付け足すんだから、相当な量の香辛料を使うよね。
タンドリーチキンには一般的に使われない香辛料も隣に並べて、俺は三人に視線を向けた。
「とりあえずこっちの香辛料に、いくつかずつ皆が選んだ香辛料を追加して、より美味しいカレーを作りたいと思ってる。かなり大変になると思うけど、付き合ってくれたら嬉しいな」
「それはもちろんよ。レオンが教えてくれる料理は全て美味しいもの」
「カレーも楽しみだよ」
「全力でお手伝いいたします!」
皆が笑顔で頷いてくれたのを確認して、俺達はさっそく作業を開始することにした。
まずはタンドリーチキンに使われている香辛料でカレーを作ろうということで、玉ねぎやトマトなど野菜をたくさん切っていく。そしてニンニクや植物油と共に炒め、さらには肉も焦げ目がつくまでしっかりと焼く。そしてそこに水を少なめに投入して、その後に香辛料を加えた。
ちなみにカレーの作り方は適当だ。後でもっと良い方法は料理人たちに開発して貰えば良いかなと思っている。この開発の間にも、ティノや母さん父さんがより美味しい手順を導き出してくれるだろう。
「これを煮詰めれば良いのね?」
「うん。それで完成したら、いくつもの小さい鍋にカレーを分けて、それぞれ違う香辛料を加えてみようかなと思ってるんだ」
「じゃあ、今のうちにどの香辛料を加えるか決めておこうか」
父さんのその言葉によってティノが紙とペンを取り出して、香辛料を加えるパターンを紙に書き出していく。
皆は香辛料を使った料理も結構開発していてそれぞれの味は分かってるので、どれとどれは合わないとか、この二つは合わないけどそこにもう一つ香辛料を加えると美味しくなるとか、そういうことをたくさん知っているみたいだ。
これって、もしかして俺いらない……?
そんな真実に辿り着いてしまったけど、まあ味見要員は必要だし、そもそもカレーの味を知ってるのは俺だけだしと開き直ることにした。
「そろそろ良いかしら?」
加える香辛料について話し合っているうちに煮込み終わったようで、鍋の中にはドロッとした美味しそうなカレーがぐつぐつと音を立てている。
「めちゃくちゃ美味しそう……!」
俺はさっそく味見をしようと思い、炊き立ての米をアイテムボックスから取り出して四つのお皿によそった。そして母さんに少しずつカレーをかけてもらう。
「何だか色は微妙だけど、いただきます」
訝しみながら恐る恐るカレーを口にした母さんは、口に入れた瞬間に目を見開いて驚愕に固まった。父さんもかなり驚いてる様子で、ティノに至っては感動で瞳を潤ませている。
「これは確実に流行ります! 美味しいし新しいです!」
俺もそんな皆の様子を見てカレーを口に運び……少し首を傾げた。確かにカレーだ。でも美味しいんだけど少しだけ物足りないというか、一味足りないというかそんな感じがする。
これは改良のしがいがある。まずは香辛料をもう少し追加するのもそうだけど、甘味を足しても良いかもしれない。そういえば日本のカレーって蜂蜜とか入ってたよね。
「先程考えたパターン五が良いかもしれません」
「確かにそうね。それか三かしら」
「まずはその二つからやってみようか」
三人は最初こそ驚いていたけど、すぐに料理人の顔になってより美味しくするにはどうするのかを話し合い始めた。凄く頼もしいな。
「レオン、その二つからやってみるから、二つだけ鍋を出してくれるかい?」
「了解」
小分けにしたカレーは冷めないようにアイテムボックスに仕舞っていたので、取り出して料理用コンロに載せる。
「どのぐらいの量が良いかしら」
「少しずつ加えて味見をしていこう」
「まずはこちらの香辛料から加えてみますね」
そうして皆が少しずつ香辛料を足して出来たカレーは、さっきよりも良い香りを放っていた。
味見をしてみると……さっきまでよりも全然美味しい。一味足りないカレーが、スパイスの旨みが感じられる美味しいカレーになっている。ただやっぱり日本でよく食べていたカレーとは違う。これはなんていうのか……インドカレーとかそういうやつだ。
俺はもう少し甘くて子供向けの、給食で出てくるようなカレーが好きだった。やっぱりあれを実現するにはまず蜂蜜かな。
「母さん、この蜂蜜を少し加えてみてくれない? 後はトマトソースも加えてみて欲しい」
「蜂蜜なんて……合うのかしら?」
「そこまで大量に入れなければ合うと思うんだ。このカレーはちょっと辛いというか、大人向けのカレーでしょ? だからもう少し子供も食べやすいやつもあったら良いなと思って」
俺のその言葉を聞いて研究欲に火がついたのか、三人は力を合わせて甘くて美味しいカレーの実現に向けて色々と試してみてくれた。その結果……日本で食べていたやつとまではいかないけど、かなり俺好みの美味しいカレーが出来上がった。
「凄く美味しいよ!」
「良かったわ」
「これはもう少し色々と試したら、そのうち食堂で売りに出せそうだ」
「甘いものと辛いものとって、何種類か別のメニューにするのもありかもしれませんね」
「それは良いな。じゃあその方針でいこう」
そうしてそれからも三人は研究を続け、その日は日が暮れてからも屋敷中にカレーの香りが漂っていた。
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