第438話 久しぶりの再会

 マリーはイアン君とまた会えたことがかなり嬉しいようで、ニコニコといつも以上に満面の笑みを浮かべている。俺よりもマリーの方がイアン君と過ごした時間は長かったから当然か。


「今日はどうしたの? 仕事……じゃないよね?」


 イアン君の家族に対する護衛の仕事はとっくに終わっているはずなのにと思ってそう聞くと、イアン君は照れくさそうに笑いながら口を開いた。


「実は本日は休みをいただきまして、少しでも祝わせていただければと思い参りました」

「……開店の祝いで来てくれたってこと?」

「はい。ご迷惑ではなかったでしょうか」

「そんなことない、めちゃくちゃ嬉しいよ」


 俺が間髪入れずにそう言うと、イアン君は軽く頭を下げてくれた。それにしても祝いでわざわざ休みをとって来てくれるなんて……本当に嬉しいしありがたい。

 イアン君は公爵家の影として日々働いてるのだから、今日ここにくるのはスケジュール調整の関係から大変だっただろう。それをしてまで初日に駆けつけてくれるなんて。


「改めまして食堂の新装開店、本当におめでとうございます。私はレオン様のご実家であったあの場所がとても好きでした。温かくて皆様に愛されていて……ここもそんな場所になったら良いと願っています」


 イアン君はあの食堂に対してそんな思いを持ってくれてたのか……確かに常連さんがいて、近所の人が食べにきてくれて、とても良い雰囲気の食堂だったな。


「あの食堂を越えられるように頑張るよ。母さんと父さんにも後で挨拶をしてあげてね」

「かしこまりました」

「じゃあお話が終わったところで、お昼ご飯を食べるので良い?」


 マリーが発したその言葉によってお腹が空いてたのを思い出し、俺はマリーに対して大きく頷いた。

 すると俺とマリーの後ろに控えていたロジェとメイドさんが、すぐにお店のメニュー表を手渡してくれる。いつの間にメニュー表なんか持ってきてたんだろう。さすがロジェだ。そしてマリーのメイドさんも優秀だね。


「イアン君もメニューをどうぞ」

「ありがとうございます」

 

 ロジェがもう一つメニューを持っていたのでイアン君に声をかけると、すぐにロジェからイアン君にメニューが手渡された。


「たくさん種類があるのですね」

「そうなんだ。新しいものばかりだけど、全部美味しいから気になったやつを食べてみて」


 俺は何にしようかな……悩むけど、今日は牛肉の煮込み丼と水餃子にしよう。やっぱりこの食堂で食べるなら米が良いし、チャーハンも良いんだけど今日は丼ものが食べたい気分だ。


「私はチャーハンとスープにしようかな」


 俺がロジェにメニューを告げたすぐ後に、マリーもメイドさんに注文を伝えた。するとイアン君も俺達の注文を聞いて決まったようで、メニューを口にする。


「私はチャーハンというものと、焼き餃子にしてみます。注文は厨房へ伝えてくれば良いのでしょうか?」

「いえ、こちらでまとめて伝えて参ります」


 イアン君の言葉にロジェがそう告げて、二人の視線が数秒だけ絡み合った。そういえばロジェって公爵家の影だったんだよね。それでイアン君も公爵家の影。ということは……二人って元同僚なのか。


「二人って仲良かったの?」

「いえ、お互いを認識している程度です」

「そうなんだ」


 ロジェの言葉にイアン君も頷いているので、これは嘘じゃなさそうだ。それなら二人で話す時間をーとかは考えなくても良いかな。顔見知りと二人きりとか話題に困るよね。


「じゃあロジェ、注文をお願い」

「かしこまりました」


 そうして注文を済ませ、お店は混んでたけど俺達の料理は父さんと母さんが優先して作ってくれたのか、少し待つだけでどんどん料理が運ばれてきた。

 部屋の中に料理が来るだけで、とても美味しそうな香りがして一気にお腹が空く。


「先程から思っておりましたが、とても美味しそうな香りがします」

「やっぱりそう思う? この匂いがよりお客さんを呼び込むんじゃないかなと思ってるんだ」


 やっぱりこの香りの理由の一番は鶏がらスープだろうな。本当にこれがあるだけで料理のおいしさが何倍にもなるのだ。ティノには感謝しないと。


「冷めないうちに食べよう。いただきます」


 俺はまず牛肉の煮込み丼にスプーンを入れた。そしてタレが染みたご飯と肉を一緒に乗せて、大きく口を開けて一口で食べる。

 噛むと口の中でジュワッと美味しい肉汁が溢れ出し、それが米の食感とマッチしている。タレの味も最高だ。ヤバい……めちゃくちゃ幸せ。


 俺が幸せを感じている間にマリーとイアン君もチャーハンを食べたようで、二人とも頬を緩めて口を動かしている。


「どう、口に合った?」

「はい。凄く美味しいです!」

「米って美味しいよね」

「不思議な食感ですが、クセになりますね。これは流行ると思います」


 イアン君のそんな言葉に俺は嬉しくなり、牛肉の煮込み丼の米をもう一度口に運んだ。うん、やっぱり米は最高に美味しい。絶対この国に、この世界に流行らせよう。


 それからしばらく牛肉の煮込み丼を食べ勧めてから、水餃子に手を伸ばした。水餃子は鶏がらスープによって凄く美味しく仕上がっている。口に入れた瞬間から広がる香りと旨みが最高だ。


「幸せ……」


 思わず俺がそう呟くと、焼き餃子とスープを食べていた二人が同意するように頷いてくれた。


「本当に美味しくて幸せです」

「美味しいものを食べてる時は幸せだよね!」


 そうしてそれからは三人で会話をしながら、楽しくて美味しいひと時を過ごした。そして食堂の客足が収まったところでイアン君が父さんと母さんにも挨拶に行き、久しぶりに五人で楽しく会話をした。今日はイアンくんに会えて良かったな。

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