第440話 ミシュリーヌ様からの連絡
大きな行事が一通り終わって、忙しいけど穏やかな毎日を過ごしていたある日。王宮で仕事をしている時に、突然ミシュリーヌ様の声が聞こえてきた。
「どうしたんですか?」
『レオン、今大丈夫かしら? 報告しておいた方が良いことがあるんだけど』
「ちょっと待ってください。アレクシス様、ミシュリーヌ様と話をしても大丈夫でしょうか?」
執務室の中なのでアレクシス様に確認を取ると、すぐに頷いてくれたのでそのまま話を続行することにした。リシャール様や文官達は、こっちを気にしている様子を見せながらも仕事を続けているようだ。
「何の報告でしょうか?」
『レオンにたまに見に行って欲しいって頼まれてた国があるじゃない。ヴァロワ王国だったかしら? あとその周辺の小国』
「はい。何かあったのですか?」
『実は数日前に小国連合会議っていう集まりがあったのよ。そこで小国の王達が集まって話合いをしたんだけど、その中に馬鹿な王が一人いて、その王が小国群を統一してラースラシア王国を攻めようと画策してるわよ』
え、マジか……なんでこの世界にはそんなに馬鹿な人が多いんだろ。そしてなんでその馬鹿な人達ほど立場があるんだ。
「なんて国の王ですか?」
『確かエクスデ王とかって呼ばれてたわね』
「エクスデ王ですね」
俺がその言葉を発した途端に、執務室で働く皆の視線が俺に集まった。もしかして有名な王様なのかな。
『調べてみた限りはかなり小さな国で戦力も少ないんだけど、まずは隣国を攻めようとしてるのよ。多分エクスデ王が負けると思うけど、隣国の圧勝とはならない戦力差だと思うわ。そして隣国は魔物の森に接してるから、戦争となったら隣国がまず魔物の森に飲み込まれて、そのままあの馬鹿な王の国も飲まれるんじゃないかしら? そうなったら周りの国にも影響は大きいでしょうね』
うわぁ……マジか。予想以上に深刻な事態だ。あの辺の国はそれぞれの国力がかなり弱くて協力しあってるから、一つ穴ができたら共倒れだろう。
「事前に教えてくださってありがとうございます。止めないとですね」
『それが良いと思うわ』
問題はどうやって止めるかだ。ミシュリーヌ様の話を聞く限りどう考えても賢い王じゃないから、説得するのは難しいだろう。かといって物理的に止めるのも避けたい。
魔物に刃を向けるのはもう躊躇わないけど、さすがに人に対して向けるのは俺には無理だ。ここで虚勢を張ったってできないものはできないのだから、事実はしっかり認識しないと。
そうなると……ミシュリーヌ様の名前を使って脅すとかかな。そのためにはまずその王に関する情報が必要だ。
「ミシュリーヌ様はどの程度、そのエクスデ王のことを知ってるんですか?」
『しばらく観察してたから色々知ってるわよ』
「じゃあ知ってる限りのことを教えてください。まず、ミシュリーヌ様のことは知ってるんでしょうか?」
『一応名前は知ってるけど、そんな存在はいないと思ってるみたいね。なんだったかしら、エーデンとかいうよく分からない名前の神がいるって思ってるらしいわよ』
おおっ、この世界で他の神の名前を初めて聞いた。ミシュリーヌ様が下界に干渉してない時期が長いから、いろんな出来事を経て実在してない神を信仰してる人もいるはずだと思ってたけど、やっぱりいるんだ。
「ミシュリーヌ様のことは信じてないんですね」
『そうなるわね』
それだとミシュリーヌ様が神託をしたとしても、すぐに信じるかは微妙かなぁ。何かしらの小芝居が必要かもしれない。
「その王って普段はどんな生活をしてるんですか?」
『酷いものよ。一日中酒を飲んで女性達を何人も側に置いて、仕事はほとんどしないのにたまに口に出しては下を混乱させて』
「……なんで国が存続してるんでしょう」
『それがね、確か第三王子だったかしら? まだ二十代ぐらいなんだけどその人が優秀で、王がやらない仕事はほとんど全てその王子がやってるのよ』
……その怠惰な王から優秀な子供が生まれるとか奇跡だね。もしかしたら本当は王の子供じゃないんじゃない?
まあそんなのはどうでも良いんだけど。必要なのは国を健全に運営できる人材だ。
「じゃあエクスデ王はどうにかして失脚させて、その第三王子をその国の王にしましょう」
『それが一番ね』
「そのためにどうするのかですが……ミシュリーヌ様の神託は神域外だとかなり神力を消費するんですよね?」
『そうよ。まあ今ならできるけど……スイーツのためにもやりたくないわ』
いや、スイーツの為なんかい!
でもまあ不本意だけど、あんまりやりたくないのには同意だ。神力が勿体ない。そうなると俺とファブリスかな。
「とりあえず、俺とファブリスでエクスデ王のところに行きますね。それでファブリスにミシュリーヌ様の言葉を代弁してもらう方針はどうでしょうか」
『確かにそれはありね。何て言葉を伝えてもらうの?』
「うーん、そうですね。――愚かなる王よ、野心に従い行動すれば、貴様には死が待つのみである。王位を第三王子に譲り退位せよ、さもなくば最悪の未来が待っていようぞ――みたいな感じですか?」
俺がその言葉を発すると、執務室にいた全員がギョッと目を見開きながら俺に視線を向けた。皆さん驚かせてごめんなさい……そう心の中で謝りながら頭を一度下げて、とりあえずはミシュリーヌ様との会話を進めることにする。
『それかっこいいわね!!』
「問題ありませんか?」
『ええ、最高よ! 漫画の主人公みたいじゃない!』
「ありがとうございます。それでこの言葉の後に、人気のない建物とかを爆発させるとより効果的だと思うんですけど、何か良い建物がありますか?」
俺のその言葉を受けて、ミシュリーヌ様はエクスデ王の住む王宮をすぐに確認してくれた。するとエクスデ王がいつも酒を飲んでいるバルコニーみたいなところから、ちょうど目の前に見える塔があるらしい。
監視の役割を担っていた塔だけど、ここ数年は全く使われていないようだ。
「じゃあその塔を、ファブリスに合わせて俺が壊します」
周辺に被害が及ばないようにバリアで囲って、ファイヤーストームとかで派手にやろう。
「このまま貴様が行動した場合のこの国の末路だ。とかファブリスに言ってもらってから壊せば、かなり怖がらせられると思います」
『完璧な作戦ね!』
これでその愚王が退位して第三王子が即位すれば、とりあえず小国群の中で戦争が起きて、その間に魔物の森に飲み込まれるってことは無くなるだろう。今考えたことを実行したら様子見かな。
「ではミシュリーヌ様、これから準備をしてエクスデ王のところに向かうので、また後で連絡します」
『分かったわ。頼んだわよ』
そうしてミシュリーヌ様との通信を切った俺は、途中から仕事の手を止めて俺の言葉を聞いていた皆さんに向き直った。
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