第441話 小国群へ
今の内容はここにいる人達になら伝えても大丈夫かな。特に人払いをするほどのものではないだろう。そう判断した俺は、場所は移動せずに自分の机から皆に伝わるように声を張った。
「皆さん、仕事中にすみませんでした。さっきのミシュリーヌ様からのお話ですが、エクスデ王が隣国に戦争を仕掛けようとしているそうです。その影響で魔物の森にエクスデ国だけではなく、近隣諸国まで飲み込まれるのではないかと危惧して、ミシュリーヌ様は私に連絡をくれました」
俺のその言葉を聞いて、ほとんどの人は呆れたような表情を浮かべた。驚くんじゃなくて呆れるってことは、エクスデ王のことは皆が知ってるのかな。
「レオン、エクスデ王については我が国にも情報が入ってきている。信じられないような話ばかりで真偽は定かではないと思っていたが、今まで聞いてきた話は真実だったのかもしれんな……」
「その可能性は高そうですね。ミシュリーヌ様も愚王と仰られていましたので」
「そうか、ミシュリーヌ様がそう仰るのならば、もうどうしようもないな。……それでレオンが動くのか?」
アレクシス様は憐れむような視線で空虚を見つめたあと、俺に視線を戻してそう問いかけた。
「そうなります。周辺国まで巻き込まれて、さらに魔物の森の広がりを許してしまうのは防がなければなりませんから。私がエクスデ王の下へファブリスと向かい、ミシュリーヌ様のお言葉を代弁して、エクスデ王の退位と第三王子の即位を求めてきます」
それから第三王子が奇跡的に優秀であることや、塔を爆破させる予定であることなど、ミシュリーヌ様と話し合ったことを一通り説明した。それを最後まで真剣な表情で聞いてくれたアレクシス様は、話が終わったところで少し頬を緩める。
「こういう時にレオンが使徒様であるというのを実感するな。執務室にいて他国の様子が詳細に分かり、さらに戦争を簡単に止めてしまえるなど……本当に凄い」
「本当ですよね……ミシュリーヌ様のお力です」
俺が答えたその言葉を聞いて、全員が祈るように少しだけ目線を下げた。改めてミシュリーヌ様がこの国を見守ってくれていることに感謝してるのだろう。
俺もたまにはミシュリーヌ様に感謝しないとだな。こうして俺がこの世界で生きていけているのは、転生させてくれたミシュリーヌ様のおかげなんだし、この地位にいられるのもミシュリーヌ様の使徒だからだ。
今度感謝の気持ちを込めて、和菓子の研究でも始めようかな。ヨアンに相談してみよう。
「では、私はファブリスと合流して行ってきます」
「分かった。レオン、よろしく頼むぞ。無事に帰ってきてくれ」
「もちろんです」
アレクシス様の言葉に力強く頷いたところで、俺は大公家の屋敷に転移をした。まずはロジェに出かけることを伝えようと私室に転移をしたところ、ちょうど俺の服の手入れをしているところだったようで目の前にロジェがいた。
「レオン様、おかえりなさいませ」
ロジェは俺が突然現れても全く驚きを表に出さず、綺麗に礼をしてくれる。本当にロジェって凄いよなぁ。
「ただいま」
「本日はお早いですが、何かございましたか?」
「実はミシュリーヌ様から連絡が来て、ちょっと遠征しないといけなくなったんだ。ファブリスと二人でエクスデ国まで行くんだけど、ファブリスの速度なら数日で帰ってこれるかな。でもどうせあそこまで行くなら魔物の森の駆逐もやってきたいし……一週間ぐらいは帰らないかも」
俺のその言葉を聞いて、ロジェは懐から取り出した予定表に、立ったまま器用に予定を書き入れていく。
「ではその間の他の予定は、取り止めか延期をしておきます」
「ありがとう。そこまで大切な予定ってないよね?」
「はい。私で動かせる程度のものばかりです」
「じゃあロジェに任せるよ。父さんと母さんには一応伝えていくけど、他の皆にはロジェから伝えてもらっても良い?」
「かしこまりました」
「ありがとう。じゃあ行ってくるね」
そうして俺は有能で頼れるロジェに雑事は丸投げし、父さんと母さん、さらにマリーにはエクスデ国に行くことを伝えてファブリスと合流した。
ファブリスは俺の説明を聞いて、やる気満々だ。エクスデ王を怖がらせるのが楽しみらしい。
『我の力で其奴を一生表に出られないようにするとしよう』
「ありがと、頼もしいよ。でもやりすぎないように気をつけてね」
『では主人、我の背に乗ると良い』
「うん。とりあえず行けるところまで転移するから、そこからはよろしくね」
『任せておけ』
最近はかなり魔力量も増えたし、王都の農業地帯の外までは余裕で転移できるはずだ。その先の街……いや、もう一つ先まで行けるかな。
もう一つ先の街の近くにある、目立つ一本の木の近くに転移をしよう。
俺はそう決めて転移を発動させると……転移は無事に成功した。まだ魔力が少し残っているほどだ。
転移の目印になると覚えていた大きな木が、目の前に悠然と佇んでいる。この木って樹齢何年なんだろう。そんなことを考えながら何気なく木の幹に手を伸ばすと、力を分けてもらえるような不思議な気分になった。
『主人のこの力は、いつ体験しても便利だな』
「本当にそうだよね。ミシュリーヌ様に感謝しないと」
『そうだな。ではさっそく行くぞ』
「うん、よろしくね」
俺は木の幹に伸ばしていた手をファブリスの背中に戻し、振り落とされないようにしっかりとバリアで自分を固定した。そしてそこからは、ひたすらファブリスに揺られる時間だ。
心地よい揺れに眠気が来て夢の世界へ遊びに行ったり、現実に戻ってきて凄い速度で後ろに流れていく景色を楽しんだり、ファブリスのふわふわな毛並みに顔を埋めて癒されたり、そうしている間にファブリスが足を止めた。
『主人、この辺じゃないのか?』
その声に従って周囲を確認してみると、街などはまだ見える範囲にはなさそうだ。でもファブリスがこう言ってるなら、近くにはエクスデ国があるのだろう。
そう思った俺は、現在地を確認するためにミシュリーヌ様に呼びかけた。
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